ノート

2004年06月27日(日) 印象に残ったことばたち-2004上半期-

これもシリーズ化していこうと思っている企画の一つ。
新聞はもちろん、直接聞いて印象に残った言葉を厳選。
あなたが印象に残った言葉も、ぜひ教えて下さい

甲子園に行きやすいから来るっていうのはちょっと・・・
そういう選手には負けたくない

(野球留学について、ある山陰球児)

明日また試合があるような感じです
(済美に逆転サヨナラ負けで呆然とする東北・大沼尚平)

明日はとにかく勝つしかない
1−0でも、100−99でもとにかく勝ちます

(青学大相手に先勝したものの翌日大敗を喫した中大・新田玄気)

こういう1点差の試合、緊張感があって
野球やってるという感じがした

(2勝目を挙げた東大・松家)

最後はキャプテンの差が出た
(明治に勝ち点を奪われ優勝が無くなった早大・田中浩康)

勝つにしても、負けるにしても、1−0と思っていました
(日大に0−1で敗戦した神大・荻野忠寛)

いつも神宮に来ると1点の重みがどしっとくる
(同じく日大に敗戦した神大・小島弦太郎)

(“0−0から味方が1点取ってくれた
その1点が勝利へのプレッシャーにならないか?”)
勝った!と思いますね
(私の問いかけに即答した某リーグ所属のエース)

(相手が明治でなくて)モチベーションが下がる
(決勝前日にこぼした日大・鈴木博識監督)



2004年06月20日(日) 登り途中の背番号9〜東北福祉大・北川聡〜

「7番指名打者、北川くん」
北川の名が2年ぶりに神宮にコールされた。
スタンドからはサトシコール。
北川聡は戻ってきた。

甲子園ベスト4の3番打者という看板を背負って入学。
1年時からベンチ入りし、新人戦では中軸を任されていた。
そして秋にはリーグ戦デビューも果たす。
2年では神宮デビュー、秋は試合出場の機会も増え
着実にレギュラーへの階段を登っていた。
「2年の秋に出てくることが増えてきて良かった」

しかし、3年春に一気に階段を駆け下りた。
リーグ戦を控えた直前の遠征中に肘の靭帯を断裂。
そのまま実家のある大阪へ帰り、手術をした。
北川が仙台に戻ったのはリーグも終わった5月下旬。
チームは全勝で優勝を飾り、そのまま選手権に出場し準優勝。
その頃北川は、グランドでリハビリを続けていた。
今後のベンチ入りが約束されているわけではない。
チームの快進撃をよそに、北川は苦しんでいた。
「とにかく精神的にきつかったし、しんどかった」と、
この頃を振り返っている。
秋のリーグ戦こそ間に合ったが11打数2安打。
だが、北川なりにゆっくりではあるが
再び階段を登り始めていた。

そして迎えた最後の春。
開幕戦では2ランホームランを放ち、チームの勝利に貢献。
9試合で3割1分6厘だったが
「下級生が台頭してきて・・・全試合出られなかった」と唇をかんだ。

神宮では初戦の大産大戦で2安打2打点の活躍。
全ての試合でスタメンに名を連ねたが
準々決勝以降は無安打と結果は残せず。
おまけに決勝では2打席連続三振で途中交代している。
形は頂点に立てたが
この春で、回り道した分の全てを取り戻せたとはいえないようだ。
だが、大学生活はまだ半年残っている。
限られた時間ではあるが、北川の歩が止まることはない。

選手権でのバッターボックス写真



2004年06月14日(月) 最後のマウンド〜広島経済大・加藤貴史〜

明治大学・一場靖弘が完全試合を成し遂げたとき
一人の選手が野球人生にピリオドをうった。
広島経済大のエース・加藤貴史だ。

高校は広島の名門・高陽東。
高3夏の大会は進学校の広に4回戦で敗退しており
甲子園出場の夢は叶わず。

広経大入学後、2年から頭角をあらわしはじめ
昨秋は広島六大学リーグの最優秀防御率に輝き
その前の春はベストナインを受賞した実力を持つ。
右サイドからスライダー、2種類のシンカーを操る技巧派。
マウンドにのぼった時に欠かさず6歩分のところにタメを作り
独特の足の上げ方をするのが印象的。
ランナーを出しても決定打は許さない粘りが持ち味だ。
広経大は3年ぶりの出場になるが
3年前、加藤はスタンドにいた。
だから今大会が加藤にとって初の神宮のマウンドであり
全国舞台だった。

全国常連の龍谷大相手に6安打1失点の完投で初戦突破。
明治戦にむけては「自分のピッチングをするだけ」と言い切った。
しかし、歴史的試合を演出してしまった。

広経大はまずは監督が、そして次々と選手がベンチに引き上げてきた。
すすり泣きのもの、嗚咽するもの、淡々と荷物を整理するもの様々だった。
加藤が引き上げてきた頃には既に監督の姿は無かった。
それくらい遅く、完全試合の余韻を残すグランドに残っていた。
奥でスパイクを脱ぎ、帰る準備に取り掛かっていたところを
引き止めた。
“お話、よろしいですか?”
「あ、はい!」目にはたくさんの涙。
たまたま座っていたところが扇風機の真下だったが
加藤はそれに気づき、「うるさいので」と場所を移動してくれた。
そして、時々言葉に詰まりながらも話し始めた。

平日の夕方から始まった龍大戦のときとはうってかわって
今日は大勢の観客でにぎわったこともあり
「お客さんがいっぱいでうらやましい。
僕達のリーグなんて会場は大学のグランドだし
控え部員しか見てませんから」と
まずは観衆の多さに驚いた。
被安打12で5失点の内容については
「もう少し内角をうまく使って投げていれば・・・」
その後は言葉にならなかったが、つづけた。
「みんなでしっかりこの雰囲気を楽しもうと言ってきた。
結果こうなってしまったが、僕は満足です。
小中高と全国経験なくて、こんな良いところで試合できて。
良い試合で投げられて幸せです」

“これからも見ていきたい。秋も投げますよね?”と
聞いたが、返事は意外なものだった。
「いえ。もう秋は投げません。今日が最後なんです、はい」
涙をぐっとこらえたが笑顔で言った。
「野球人生の最後にこんなお客さんいっぱいのところで
終われて幸せです」

最後に、これまで多くの選手に話を聞いてきたが
話を聞きながら、自分まで涙が出そうになったのは初めてだった。
また今日で最後だったということは、どこの記者も知らない。

加藤は静かにユニフォームを脱いだ。


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