SS‐DIARY

2019年09月20日(金) (SS)最高の誕生日




「なんだよ」


最寄り駅の改札にアキラを見つけた途端、ヒカルは言った。


「なんだよとはなんだ」

「だっておまえ、今日は遅くなるって言ってたじゃん」

「そのはずだったんだけど、予定より早く終わったんだ」

「だったらとっとと帰ればいいのに」


こんな所に突っ立ってないでさあとヒカルが言うのにじろりと睨む。


「別に今日はキミの誕生日だから、出来るなら一緒に帰りたいとか、折角だから一緒にケーキを選んで買ったり、なんならどこかで外食してもいいしとか、それが嫌なら何かキミが食べたいものを買って帰って作ってもいいしとか」


そんなことを思って待っていたわけでは無いときっぱりと言い切られてヒカルは笑った。


「全部言っちゃってるじゃん」

「なんのことかな」

「別にいいよ、おまえのそーゆー素直じゃない所すんごく好きだし、滅茶苦茶愛しているし」

「そういうことを外で言うな」


べしりと頭を叩かれてヒカルは苦笑する。


「で、じゃあどうしますか? 女王様」

「ぼくは女じゃない!」


再びべしりと頭を叩かれ、今度はさっきより痛かったのでヒカルは顔を顰める。


「おまえさあ…」


いくら愛してると言っても誕生日様にそれは無いだろうと言いかけるヒカルの手をすっとアキラが握った。


「取り合えず帰ろう。帰りながらキミがどうしたいか道々聞く」

「聞くって、そんな十分もかからないのに?」


早足ならば七分だ。

年を取ってからも苦にならないようにとそういう物件を二人で選んだ。


「だったら早く考えろ。早碁は得意だろ」

「おまえ程じゃないけどね」


そして改めてしっかりと握られた己の手を見る。


「…いいの?」


そういうことを普段徹底して嫌がるアキラだからこその問いだった。


「いいよ、そのために待っていたと言ってもいい」


なんたって今日はキミの誕生日なんだから、キミがしたいと思っていることをしないとねと。

そしてにっこりと笑った。


「間違っていたか?」

「いや、本当はいつもこうして帰りたかった」

「だろう」


アキラの笑みは優しくて、女神様みたいだとヒカルは思った。

でもそれを口にするとまた更に痛くぶん殴られると解っていたので黙って笑い返し、思い切り強くアキラの手を握り返すと、最高に幸せな気持ちで歩き出したのだった。


end


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