液体洗剤が糸を引くように洗濯機の中に滴って行くのを見つめていたら、ふと進藤としばらくしていないなと思いだした。
お互い忙しくてすれ違いが多いせいもある。
それ以上に進藤とタイトル戦で当たる頻度が多くなったせいもあった。
真剣勝負で戦う相手と慈しみ合うことは出来ない。
なので真面目に数えてみたらもう三か月もそういうこととご無沙汰だった。
(ぼくはいいけど)
進藤は大丈夫なんだろうかと今更に考える。
客観的に見てぼくは性的な欲求は薄い方だと思うのだが進藤は普通か、結構欲求が強い方だと思うからだ。
(他でしているのかな)
あり得ない話では無い。
元々ぼく達は相手以外にはノーマルな嗜好なので、付き合うようになる以前、進藤には何人か恋人が居た。
『だってお前とは叶わないと思っていたから!』
進藤が言っていたことを嘘だとは思わないけれど、本来は女性の方が好きだということだ。
「…そういえばこの前、女性誌の記者と飲みに行っていたっけ」
もしかしたらあの人と寝ているのかもしれないなと思ったら胸の奥がしくりと痛んだ。
(仕方無い)
仕方ないとは思うけれど、本当にそうならば辛いことだなと思った。
だってぼくは彼だけで、彼以外を愛することなど無いと思えたからだ。
(まあ、でも…)
覚悟だけはしておこうかなと洗剤のキャップを強く締めながら思った数日後、帰宅した進藤は出迎えたぼくをその場で押し倒した。
「ごめん。もう無理!」
結構乱暴に倒されたので体が痛いなとか、いやそもそもここは玄関だしとか、鍵もかけずに何をやっているんだと色々ん考えが頭を過った。
「…進藤」
「せめて棋聖戦が終わるまではっておまえ言ったけど、終わってもまたすぐ次 が来るじゃん! こんなにおまえ断ちしてたら頭おかしくなりそうだって」
ぎゅっ、ぎゅうっと抱きしめられてふと考える。
「…そんなことを言ったか?」
「言っただろ、戦意がぶれるから最低でも棋聖戦が終わるまではおれとしないって! もっともだと思ったから我慢してたけど、でもおれもう限界」
きゅっと首筋を吸われて痛いなと思う。
「そうか、悪かった」
言ったこと自体をぼくはすっかり忘れていた。
ということはこの三か月何も無かったのは彼がぼくの言うことを真面目に聞い
ていたからだということになる。
「…なんだ」
ぷっと笑いが口の端からこぼれた。
「なんだよ、結構、かなり深刻なんだからな!」
この辛さをちょっとは解れと言われて笑いながら彼の頭をそっと撫でた。
「ごめん、キミは良い子だね」
「良い子だよっ!」
「悪かった。もう解禁でいいよ」
ぼくもキミが欲しくて限界だと言うと進藤の顔がぱっと明るくなった。
「マジで?」
「うん」
でもこんな玄関でするのは背中が痛いしせめて寝室でしようとぼくが言うと、進藤は余程嬉しかったのか、あり得ないバカ力でぼくの体を抱き上げるとそのまま一気にベッドの上まで運んだのだった。
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というわけで置き土産SSです。暑そうですが、がんばります。
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