SS‐DIARY

2008年01月06日(日) (SS)深い眠り 浅い眠り


夜はよく音が聞こえる。

車や人の通りも少なく余分な音が無くなるから、ほんの少しの微かな音も耳が拾えてしまうのだろう。


ぐっすりと眠っていたはずが頭はどうやら起きていたらしく、音がした時に「あ、進藤が起きている」と思った。

ふわりと布団が持ち上がり、みしりと畳を踏む音がした後にそっと襖を開ける音が続く。それから少しだけ遠慮の無くなった足音が廊下をそっと歩いて行く。

(水でも飲みに行ったのかな)

夕べは非道く汗をかいていたからきっと喉が渇いたんだと、ぼんやりと思っていたらガラスのコップをシンクに落としたような音がして思わずくすりと笑ってしまった。

(大丈夫かな、割れなかったかな)

それから蛇口をひねる音と、思い直して閉める音。
そして冷蔵庫のドアを開けて何かを取り出す音がした。

(冷蔵庫の麦茶を飲んでいるんだ)

寝る前にぼくが作ってあるから飲んでと言った、その言葉を思い出したのだと思ったらなんだか嬉しくなった。

(よしよし)

ちゃんとぼくが言ったことを覚えている。

ただの水で無く、ぼくが作った麦茶を飲んだ、そのことは褒めてあげなくちゃととろとろとした意識の中でぼくは思った。

その後、キッチンの方ではしばらく迷うようにあちこちを開ける音がした。

(きっと小腹がすいて何か食べるものを探しているんだ)

でも見つからなかったらしい、少ししてコップを洗う音がして、それからゆっくりとこちらに戻ってくる足音がした。

襖の前で躊躇って、それからくるりと引き返して行ってトイレのドアを開ける音が響いた。

(冷えたんだ)

水を飲んで、夜の空気に晒されて、トイレに行きたくなったのだと思ったらくすくすと笑いたくなってしまった。

そしてまたゆっくりと戻ってくる足音がしてそれからそっと襖が開けられる。

みしりと注意深く畳を踏む音がして、それから布団の隅がめくられた。


「あー…寒っ」

寒かったと小さな声でつぶやいて、それから布団の中でさ迷わせている彼の手をぼくは目を瞑ったままそっと握った。

「わ、ごめん、起こしちゃった?」

驚いたように言う進藤にぼくは目を開かずに答えた。

「いや、起こしてなんかいないよ」
「そうか、でもごめんな」

うるさかったよなと言う彼の指がゆっくりとぼくの指に絡められる。

「いや、そんなことは無いよ大丈夫…まだ半分眠ってるみたいな感じだし」
「そうか」
「でも、音はよく聞こえた」

キミのたてる音はよく聞こえて、なんだかそれが嬉しかったよと言うと進藤は少し黙って「そうか」とまた言った。

言ってぼくの手をぎゅっと握った。

「明日は朝、おれがメシ買ってくるな」
「うん」
「おやすみ」
「おやすみ」

そして二人静かに眠る。

しっかりと手を繋いだまま、静かな呼吸の音だけが部屋の中に響き、ぼくは今度こそ深い眠りの中に落ちたのだった。


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愛しい音です。


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