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夢の図書館新館

お天気猫や

-- 2001年04月27日(金) --

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『心のおもむくままに』

大事な人に自分のことを知って欲しくて、手紙を書く。 こころのなかで、語りかけるように。 文字は胸のうちに浮かんで風に消え、 決して相手の目にふれることはない。

だからこそ、オルガは本物の手紙を書いた。 家を出てしまった孫娘に、彼女が逝ったあとで 自分のことを知って欲しくて。 孫娘が生きていくために、女たちの人生から 何かを吸い取れるように。 この一冊はすべてその長い手紙なのだ。 ルールはふたつだけ。

嘘は入れないこと。

この期に及んで、すべての愛を惜しまぬこと。

誰でも、その人の言葉で大事な人に 切手のいらない手紙を書いているのだろう。 そうした呼びかけが、どこかで相手に届くのを 知っているかのように。 星の王子様が、宇宙に残してきた薔薇の花を想うように。(マーズ)


『心のおもむくままに』 著者:スザンナ・タマーロ / 出版社:草思社

お天気猫や

-- 2001年04月24日(火) --

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『メリーゴーラウンド』

その図書館には、ロザムンド・ピルチャーの本が たくさん並んでいる。 2階にはほとんど人の気配はなくて(それは1階も同じだけれど)、 持ち帰る本をあれこれと手に取ってまた棚に返し、 選んでゆく短い時間はまるで運を試すテストのよう。

ピルチャーを読んだことはなくて、若い女性向けの 恋愛ものだということくらいしかわからなかったが、 こんなにたくさんあるのなら面白いはずだ。 1924年生まれで、18歳から小説を書いている …バーバラ・カートランドのように。 英国にはそんな女性作家が多いように思う。 ほとんどの話が英国やスコットランドを舞台に 描かれているから、ページを旅するにはちょうどいい。

ヒロインのプルーは私にとっては少し若すぎるけれど、 結果は当たり。塩の具合がちょうどいいのだ。 これはお砂糖の量よりもある意味大事なこと。 そういえばお砂糖は少し薄めだったか(笑)?

そして、やっぱり、次の英国旅行は コーンウォールへ行きたくなってしまった。 でもその前に、"ロザムンドおばさん"のページをめくって、 スコットランドへも行ってみよう。(マーズ)


『メリーゴーラウンド』 著者:ロザムンド・ピルチャー / 出版社:東京創元社

お天気猫や

-- 2001年04月23日(月) --

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『シャルトル公爵シリーズ』

ずいぶん昔、北海道に旅行に行ったとき、名香智子のサイン会を 偶然やっていて、色紙をもらってきた。 私が唯一持っているマンガ家のサインである。

週間少女コミックで連載していた"いにしえの"『美女姫シリーズ』が 初期の代表作とすれば、社交ダンスの世界を描いた『パートナー』(全14巻)は 次の時代の代表作といえるだろう。 このシャルトル公爵シリーズは、一番最近の代表作。 ライフワークともいえるのではないかと思っている。 『純愛はジゴロの愉しみ』から『薄情は薄氷を踏む』までの12巻。 名香智子は、少女マンガ家としての長いキャリアのなかで、 一度は崩れかけた作風を立て直すのに成功した数少ない人である。 自分のフィールドを理解し、 良い意味で自分の絵を取り戻し脱皮していった。 レディースコミックが登場してから、 すっかり身を持ち崩してしまった「過去の名作家」は数多い。

シャルトルシリーズの主人公であるアンリ・ド・シャルトルは 名香智子の超お気に入りキャラ。 見た目はナイーブな美青年、頭脳明晰、大金持ちで実業家、 女性関係はメチャクチャ、性格は悪い。 『美女姫』でも、主人公である双子の美少年貴族ソンモールとカーモールの お仲間として登場している。 実際、設定は変わっているが、大人になったソンモールは シリーズの『エメラルドは気取り屋』で 日本で暮らすアンリの憧れの人(もちろん男どうし)として登場している。

美女姫の頃は、作者がそんなにアンリに入れ込んでいるとは 知らなかったが、シャルトルシリーズの主人公として アンリの半生が描かれているのを見るにつけ、 「ああ、好きなんだなぁ」とうれしくなってくる。

このシリーズを私が面白いと思うのは、 アンリという主人公が、いわゆる主人公タイプではない、ということ。 美女姫のときも脇役だったし、たしか他の作品にも出ていたと思う。 少女マンガ(あえてジャンル分けすれば)の主人公は、 ご存知のように、アンリのタイプではない。 性格は別にしても、描き分け、つまり眼や髪といったパーツが 主人公のカテゴリーからは外れている(評論家みたいになってきた)。 アンリと結婚するレオポルディーネだって、いわゆるヒロインの タイプではない。彼女も絶世の美女で、かつメチャクチャな発想に 読者が共感したりできない、ついていけないタイプである。 アンリの母親ですべての発端であるヴィスタリア (ウィルスにこんな名前があるのだっけ)はこれまたアンリにそっくりで、 彼女もまたヒロインタイプではない。もっとも彼女は変わり者という 設定なので、それが魅力でもあるのだが。

名香智子は、このシリーズで、『パートナー』でも試みた 挑戦をついに完成させたように見える。 パートナーでは、ヒロインとパートナーが 最後は別れるにしてもステレオタイプだった。 しかし、シャルトルシリーズはちがう。 誰と誰がまとまるか、読者が知りたいのはそこなのだが、 いかにも主人公くさいキャラクターたちの ハッピーエンドやアンハッピーエンドに振り向きもせず、 自分の好みのキャラをメインに据えながら、 予定調和を破りまくって、なかには、どんな障害があっても 普通ならこの人とまとまるはず、というヒロインさえ遠ざけ、 少女マンガで育った私などから見ると、ありえないような 結末を与えることに成功したのだ。 もちろん、後からキャラが立って動いたとかいうものではなく、 どうみても最初から「そのつもり」である。

「そんなありふれた過去の設定自体が今ではもう通用しない」と あなたはいわれるだろうか? しかし、彼女ほどこの「反抗」をうまくやってのけた大御所を 私は知らない。(マーズ)


『シャルトル公爵シリーズ』 著者:名香智子 / 出版社:小学館PFコミックス

お天気猫や

-- 2001年04月19日(木) --

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『愛の続き』

マキューアンはこれで2作目。 前回の『アムステルダム』のなかに満ちていた ある種の静謐なイメージは負担なく読めたのだが、 今回のは重さが残る内容だった。

導入部の、数十秒のできごとを文学的な永遠へと 引き伸ばす手法は見事なテクニック。 科学ライターというのだろうか、 主人公の仕事自体や彼の挫折も興味深いが、 ストーカー青年が次々と投げかける妄想の前には 足元が崩れていく感覚を共有してしまう。

ある日、事故をきっかけに唐突に陥った、 主人公の男性とストーカー青年の一方的で純粋な関係。 男性と長年同居している女性パートナーの関係も 青年パリーの登場によって安定を欠いてゆく。 なによりも、こわれてゆくのは青年本人では あるのだけれど。 治すことのできない病。

誰かに出会って愛しく想うことと、 その結果の行動が、どこから病気で、どこまでが正常なのか。 もし二人が同時に恋に落ちれば、病気は 発覚しないのではないか。 症状は30年以上も続くことがあるという。 しかも、本人は不幸ですらないのだ。 愛されていると信じ込み、その熱に身を委ね、 拒絶に会うと妄想を手紙に託す。 けれど、そこに書かれた浮いた言葉や夢のほとんどは、 恋をしている誰かが誰に出してもおかしくない。 「殺してやる」と書いた正常な恋人はいないのか?

世の中の恋人たちのなかに、 実際どれくらいの患者がまぎれこんでいるのだろう。 恋は治せないといわれているし、この病もまた。

恋と病気のあいだには、どんなたどたどしい線が 引かれているのか。

そこがこの奇妙な物語の核心ではないのだろうか。(マーズ)


『愛の続き』 著者:イアン・マキューアン / 出版社:新潮クレスト・ブックス

お天気猫や

-- 2001年04月17日(火) --

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『葉っぱのフレディ』

大きな木の一枚の葉っぱ、 「フレディ」のライフサイクルを 子どもたちは絵本のなかで体験してゆく。 こころのなかにあるのは、変わらない疑問。

どこからきて
どこへいくのか、
わたしはだれなのか。

どこにでもある葉っぱたちの ささやきと姿を通じて。

以前、顔見知りの童話専門店で この本を探している母親がいた。 まだブームになる前だったと思う。 店の主は、「きっとこれでしょう」と 黄色い葉っぱの表紙「フレディ」を取り寄せ、 母親は満足し、うれしそうに持ち帰った。 あの母親は子どもに どんな風に読み聞かせたのだろう。

ある人は死んだら生まれ変わるといい、 ある人はただの灰になるだけといい、 なぜ人を殺してはいけないのかと問う。 ある親は自分の子を分身と思い所有しながら、 クローン人間には反対する。

生きている以上死なない人はいないのに、 死がなんなのか、 なぜ生きているのか、 そんなことを子どもに教えられない社会に 私たちは暮らしている。 そして同時に、 自然のなかの生命が、太陽と月の下で 偽りなくすべてを語っている世界に。(マーズ)


『葉っぱのフレディ』 著者:レオ・バスカーリア 訳:みらい なな/ 出版社:童話屋

お天気猫や

-- 2001年04月16日(月) --

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『モリー先生との火曜日』

大学時代の恩師、モリー先生が病に倒れた。 病名はALS。足から始まり前身の筋肉が萎縮し、 死に至る難病の宣告。

卒業以来一度も先生のもとを訪ねなかったミッチは、 そのころ多忙な売れっ子スポーツライターだった。 人生のものさしを変えることになる訪問が始まるまでは。

だんだん病状が進むモリー先生と過ごす火曜日の特別授業。 学生時代、陽気で思いやり深く、誰からも特別な存在として 愛され慕われていたモリー教授にとって、 ミッチは特別なお気に入りだった。 でも、ミッチはそれを忘れていた。 モリーは、それを忘れなかった。 ミッチは先生から学んだことをないがしろにしたわけではないが、 「多くを所有することが美徳とされる」アメリカ社会の文化に 溶け込んで暮らしていた。 師への訪問の約束も忘れて。

モリー先生とミッチの時間は、モリーを見舞う多くの友や教え子、 だいじな家族と過ごす時間のなかに、モリー本人の強い希望で 最後まで大切にとっておかれた。

彼は人生のコーチとして再びミッチに語る。 家族や愛、結婚、生と死、許すこと。 金をものさしにしないこと。 ダンス狂いだったモリー。 生まれ変わったらガゼルになりたいんだ。

不遇だった子どもの頃、両親のおやすみのキスを 熱望していたモリー。 だから自分は惜しみなく愛を与え、受け取ってきたモリー。 ミッチを本来のミッチに戻して逝った、モリー。(マーズ)


『モリー先生との火曜日』 著者:ミッチ・アルボム / 出版社:NHK出版

お天気猫や

-- 2001年04月09日(月) --

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『レベッカへの鍵』

『針の眼』で有名なケン・フォレット、実は初めて。

第二次大戦中のカイロが舞台のスパイ活劇。 カイロを統治するイギリス軍の少佐、ヴァンダムと ドイツ軍のスパイ、ヴォルフとが トレンディドラマ顔負けの確率で、カオスと化した カイロの街の至るところで遭遇し、 知らず知らず軍全体を巻き込んで、 究極の個人戦を繰り広げてゆく。

タイトルの『レベッカ』は、デュ・モーリアの小説。 この本が重要な暗号のテキストに使われている。 ロンメルやサダトなど、実在の英雄も登場するので 虚実入り乱れた展開の行く末を知っている人も 私のようによく知らない人も、 歴史を楽しめる大風呂敷な作品である。

ところで、主人公がどちらの男なのか、 前半はわからなかった。 こういう作品は、必ずどちらかの側に立って描かれている はずという先入観があって、先に登場して出し抜いていく ヴォルフ─孤独なスパイ─が主人公かと思ったのだが、 歴史の善悪という単純な物差しで見れば、 冷徹なヴァンダム─孤独な40前の中年男─が主人公だった。 とはいっても、二人ともが主人公であることにはちがいない。

戦いは、先に冷静さを欠いた者が敗れる。 最後はまさにそれ。 そして、できる女を味方につけなければ、勝てない。 実際の戦争ですらそうなのだから、職場など言わずもがな。(マーズ)


『レベッカへの鍵』 著者:ケン・フォレット / 出版社:新潮文庫

お天気猫や

-- 2001年04月04日(水) --

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『自分の人生がある場所へ』

いまの自分の生き方に疑問をもっている というのが当たり前なのか、それほどでもないのか、 人生を踏み外している身には 断定などできないのだが。

この本の主人公は、偽りの生活を続ける 虚しさにピリオドを打ち、都会での仕事をやめ、 妻や子どもと別れ、いまはここ、 ミラマーの浜辺の住人となったライター。

もし私が自分の生き方に狂おしいほどの 疑問を抱えていたら、どんな感慨にふけって この本を読んだだろう。 または、知らずに抱えている問題に、この本が警鐘を 鳴らしたとしたら。

すべてを変えるきっかけに、なりうるだろうか。

図書館という本の浜辺で、偶然のいたずらから 拾い上げたこの本から私が得た真実、 最近ことさらに実感する真実は、 理想の相手に出会うための ちょっとした秘訣かもしれない。

人は変わることができる。 そう望みさえすれば。(マーズ)


『自分の人生がある場所へ』 著者:リチャード・ボード / 出版社:翔泳社

お天気猫や

-- 2001年04月02日(月) --

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『カモメに飛ぶことを教えた猫』

旅の途中、アクシデントで力尽きたカモメに たいせつな卵を託された猫の子育て。

太ったオスの黒猫、ゾルバは、 カモメのヒナの母親になる決意をする。 旅をする船の猫・向かい風や 物識りの猫・博士をはじめとする、港の猫社会が ゾルバと養いっ子を見守り、やがて…

じぶんとちがう種族への理解と愛情。 じぶんらしさへのこだわりと、 守るべきものをもっている強さ。 身勝手な者さえも、ただ責めるのではない寛容さ。

もしも、もしも 思いつめた猫がやってきて、 わたしに助けを求めたら、 ちゃんと、「ことば」で助けになりたい。 体験したことがなくても、想像力があれば、 ことばは有効だから。

もし、小さな男の子がそばにいたら、 お寝み前に少しずつ読んで きかせてあげたいなと思う本。(マーズ)


『カモメに飛ぶことを教えた猫』 著者:ルイス・セプルベタ / 出版社:白水社

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