2003年03月11日(火)
赤い天使


3年くらい前の話をしようと思う。
あたくしが、ネットで出会った友人の中で、特に信頼をおいている・・・・そして、今では「姉」とさえ思っている
そんな人物がいる。


彼女は今、自分のHPも閉鎖してしまったので、
こっそりと様子を垣間見ることもできなくなってしまったのだけど、
電話番号くらいは残っている。
いつでも、繋がっている。
そう信じているのだけど・・・・。




あたくしが「キネマの天地」の稽古場で、あぁでもないこうでもないと戦っている頃、
別の場所で、これまた悪戦苦闘を強いられている一人の「同士」がいた。
あたくしが本名で最後の仕事をするのと時期を同じくして、
彼女は「MAKOTO」という名前での最後の大仕事を華々しく飾るために戦っていた。


みらい。本名は明かさずにおこう。


彼女は美容師なのだが、もう1つ別の顔を持っていた。
TVやCM、映画やスチールのメイキャップアーティスト・・・・しかも専門は特殊メイクだ。
そんな彼女が挑んだ最後の勝負。
それは、外国のリゾートホテルのポスターでクライアントからはこんな注文が出されていた。


「天使を作れ。」


このクライアント、現地ではAクラスのホテルである。
彼らの要求は明解であったが、その難度もAクラスであった。


「今までにない、新しい天使を作ってくれ。」


それがMAKOTOに出された課題であった。
この難しい課題に、彼女はそれこそ今までにない大スランプを抱えているらしかった。
丁度この頃のあたくしは正に絶好調、スランプなどどこ吹く風!
演出のダメ出しにも真っ向から立ち向かい、「別プランで・・・・」と
今にも演出の口からこぼれだすのを、無理矢理押さえつけるだけの気迫をもって
自分の演技プランを納得させてしまう・・・・なんていう荒業も極々普通にこなせていた。
何をどうしたらいいのか・・・・という心理的重圧もほぼ皆無で、
前年のような本当に納得のいかないストレスをも、生活に介入させる余地を作らせなかった。


みらいがあたくしと同じように、自分の内側にいくつかの人格(らしきもの)
を持っているというのを知ったのは、出会って数ヶ月経ったある日のことだった。
恐る恐る、自分の恋の相談をしたり、実際にオフなんかで会って騒いでいるうちに
その居心地の良さに気付き、案外タブー視されるほどの自らの秘密も互いに明かすようになっていた。


この頃のあたくしには、まだ明確に5人目の凶暴なヤツは現れていなくて、
本名・真冬・一平・朝美の4人が「わたし」という1つの中に同居していたのだけど、
彼女の中にも、本名・みらい・まことという3人がいた。
はっきり言って驚いた。
まさか、ここまで状態の似ている人に出会えるだなんて思ってもみなかったから。
似ていたのは、何も状態だけではなかった。
どうして、あたくしのやることなすこと思うこと全てを自信たっぷりに肯定するのか、
そして、それをすんなりと受け容れられるのか、当初のあたくしはそれが不思議でもあり、
疑わしくもあった。
が、彼女から度々届くメールを読んでいくうちに、
彼女がどんなに深くて濃厚な人生を送ってきたのかというのを知ることとなり、
そして、本当にあたくしと同じ視点、同じ考えでもって受け答えをしていてくれたのだった。
「あたくし」という一人の人間を、真っ向からちゃんと見つめていてくれる人だったのだ。


彼女は言った。

「異母姉妹なんじゃないの?(笑)」

冗談とも取れるが、冗談にしてしまうには勿体無さすぎる。
それほどに彼女とのシンクロ性にあたくし自身がハマっていたのだ。
言葉という言葉、センスというセンスが重なり合い、あたくしは近年になく
恐ろしいほどの安心感を手に入れたのだった。
似ている・・・・というと失礼にあたるかもしれないけれど、
あたくしは本当に色々な意味で彼女のことを、尊敬していた。


ある日の明け方。メールチェックの為にネットをつなぐと、当時はまだページャーだった
YAHOOのメッセンジャーがけたたましい通知音と共に、みらいからのウィンドで開いた。
珍しいこともあるものだと、彼女の話を聞き始めたのだが、
聞いているうちに、自分がとてもワクワクしていることに気がついた。


「天使って、どこにいると思う?」

「天使って、何色?」


固定概念をぶち壊すため、みらいは幾つも幾つもあたくしに質問した。


「天使っていうとさぁ、ロスだと思うんだよね。
でも、今すぐにロスに経つわけにもいかないし・・・・。
ねぇ、あさみちゃん。
日本でロスによく似た街ってどこだろう?」


あたくしはロスに行ったことがない。ロスがどんなところなのか知らない。
あたくしはみらいに、ロスのイメージを聞いてみた。


「ネオンがギラギラ、行き交う人々、飛び交う光、
夢と希望、挫折と苦悩・・・・眠らない街。」



知ってる・・・・今日もそういう街をあたくしはこの足で歩いてきた。
そうか・・・・確かにあの街には「天使」がいるかもしれない。


「みらい、新宿だよ。それって新宿じゃん!?」

「新宿・・・・そうか、新宿かぁ!」



天使がどこにいるかと問われて、あたくしは自分の書いた作品群をふと思い出していた。
美しいスポットライトを浴びた天使もいた。
瓦礫うず高い廃墟の中に佇む天使もいた。
新宿には、その両方のタイプの天使がきっといるはずだ。
あのゴミゴミした雑踏の中に、ふわりと天使が舞い降りてきたら、きっと皆が振り返るよ・・・・。
みらいにそう言って、あたくしは更にワクワクした。
頭の中に、しっかりと新宿に降り立つ天使のイメージが思い描けてしまったからだ。
ノリノリのあたくしがイメージした天使は、確かな色とベクトルを持っていた。


「うん。これから行ってみるよ、新宿に。」

「これから? 横須賀からだと結構かかるんじゃ・・・・?」

「車で飛ばせば、すぐよ。行ってくる( ̄^ ̄)」

「行って・・・・どうするの?」

「街頭突撃インタビュー( ̄^ ̄)」

「(笑)みらいらしい・・・・」

「あさみちゃんだってそうじゃない?
何か物を作る時や・・・・そうだ、役作りの時なんか、人に色々聞いたり
イメージにピッタリの場所に行ってみたりとかするでしょ?」


「うん・・・・するよ。」

「それと一緒♪ 私たちのやってることは、そういうのと全く一緒なんだ。」



彼女もこの時、何か閃いたらしい。確実にノってきていた(笑)。


「ところでさぁ・・・・天使って何色なの?
もうさぁ、天使っていわれるだけで、金髪巻き毛の白い服着た
かわいいかわいいのしか思いつかなくって・・・・。
でもクライアントは、今までにない天使を作れって言ってて・・・・。
頭の中、グルグルするだけで、全然思いつかないの。」


「赤だよ・・・・みらい。」

「赤!?」

「天使は、赤だよ。」



金髪で巻き毛で白い羽根、包み込むような優しさ・・・・あたくしの天使はそんなんじゃない。
黒髪で直毛、大きくて背中を全て覆いつくすような深紅の羽根、
超高層ビルの屋上から空気を切るように急降下したり、
地面すれすれのところから、自らの意志で急上昇するような激しさ。
正に「天からの使途」。美しきパワー。

そして、そのパワーを巧く表現している曲もあたくしはかつて聴いた事がある。
あたくしは知らず知らずのうちに、半ば興奮気味で自分のイメージをみらいに伝えた。
今から思うと、あんな突飛な提案を、よくもまぁスラスラと最小限の言葉で伝えきったものだと
呆れてしまうほどだ。


そして、みらいは色々な情報を集めまくり、見事、天使を完成させた。
後日、彼女からメールで届いた撮影日記を読んだのだが、それを読んでいるうちに
またもや不思議なシンクロをあたくしは体験してしまった。

見えるのだ。ハッキリと。
ただ言葉で説明されただけの天使の姿がハッキリ見えたのだ。
みらいが作り上げた天使をクライアントが認めてくれたと書いてあったのを見て
あたくしは、まるで自分が誉められているような感覚になった。
うれしくて、うれしくて、仕方がなかった。
だからあたくしはみらいにポロッとこんなことを言った。

「何でか、安心して自分の思うことをぶつけられるのよ。
世間じゃ顔を顰められるような事でも、みらいにだとすぅ〜っと言えちゃう。」



そのまた後日。
みらいから、メールが届いた。
3年前、みらいからこんなメールが届いた。
あたくしは感謝と尊敬の念をこめて、ここに抜粋転載します。怒らないでね、みらい・・・・。


【題名】愛する異母姉妹へ♪(爆)

あさみたんっ♪ 
まずは 改めてお礼から・・
あの日の朝 あさみが繋がなかったら・・ 朝っぱらから私の話につき合ってくれなかったら・・
きっと・・ 私の天使はただのゴミくずになっていたでしょう・・
あさみの話がモトで 躍動的な天使を思いつき あさみをイメージしてそれを作りました。
真っ赤な羽はあさみたん。黒い羽は私。 YPでも言ったよね?
人々に感動を与え 今からの幸せを思い出させる! 諦めかけていた心に希望の光を与える・・
ただ包み込むだけでなく 自分の攻撃的な部分を見せて。 私の作りたかった天使です。
これを思いついてから あさみのことばかり考えていました。
「今頃演出に怒鳴られながらもあさみは闘ってるんだろうなぁ・・ 楽しんでる・・ きっと楽しんでる・・
どんなきついことを言われても あさみはきっと楽しんで稽古してるんだ・・ 大衆に感動を与える為に・・」
数ヶ月前。 初めてあさみを見たとき・・ 昔の自分の姿を見てるようで怖かった。(笑)
あさみとのMail交換が始まって・・ あさみの事をもっと知っていくうちに・・
「世の中にこれほど自分に似てる人間がいるなんて・・」
驚きと喜びと。 胸が躍ったものでした。(笑)
1年前。私は諦めはじめていた。10年前からずっと聞きたかった言葉・・
りょうちゃんからの「良い作品だったな」という言葉を聞くことを。
もし あさみに出逢っていなかったら
この言葉を聞けないまま私の10年間は終わっていたでしょう・・
この言葉を聞きたくて闘っていた日々・・
そんなもの忘れたまま 10年間の幕を閉じていたように思います。
あさみの輝きが 忘れかけていた私の闘争心に火をつけ、最後にもう1度・・頑張らせてくれた。
あさみ・・ あなたに出逢えて本当に良かったです。
力を分けてくれた事・・ 心から感謝しています。
本当にありがとう。 

不思議です・・ 本当におかしな話です。
あさみからのMailが来るたび 自分の心と重なっているあさみの心を知ります。
モノの考え方。 感情。 使う言葉。 本当に分身のよう・・(笑)
”なんだかね・・・おかしいんだけど、自分がほめられた感じすらしたんだよ(笑)”
涙が出ちゃいました。 またしても同じ感情を持ってくれた・・
誰かがあさみの事を誉めるとき・・ 私は自分の事を誉められてる気分になる。(笑)
先日・・ ”雑”が届きました。
「読みたい?読みたいでしょぉ〜〜♪」
まるで自分が書いた作品が載ってるかのように 自慢げにそれを見せびらかしていた私。
読み終えて 「う〜〜ん・・ 凄いよなぁ・・ あさみの文才・・ ぶつぶつ・・」
そう言ってるのりぃに対し
「そうでしょっ♪ そうでしょっ♪ もっと誉めてぇ〜〜♪」って・・(笑)
「公演・・もうちょっとだなぁ♪ ホントに楽しみだなぁ♪」
その言葉にまた喜びを感じ
「でっしょぉ〜〜♪ 凄いの見せてやるからねっ♪ 期待しててねっ♪」って・・(笑)
自分が舞台に立つんじゃないのにね・・(;^_^A アセアセ
のりぃにも言われたよ(笑)
「まるで自分がやるみたいだな」って・・
あさみが今・・ どんな気持ちで闘っているのか。私には手に取るようにわかる・・
今回のMailを読んで・・ 「ほぉ〜〜らっやっぱりっ♪」って思ったのはそのせいなのかもね・・(笑)
「みらい相手だと安心してぶつけられる・・」 
あさみ・・ 同じなんだよ。 あの日YPでそう言われたとき私も思っていた・・
「あさみが相手だからすべてぶつけられるんだ・・
きっとあさみなら私のイメージを理解してくれる・・」って・・
のりぃに ”雑”を手渡すとき。 
「今回の話はねっ 天使って言葉が使われてるんだよっ♪
でねっ♪ あたしが作ったのも天使だったでしょっ♪
ねっ♪ ねっ♪ これって凄くなぁ〜〜い?! やっぱ何かあるんだよねぇ〜〜♪」
「でも・・ あさみがそれ書いたのは今じゃないんでしょ?」
そんなのりぃの返答に・・
「発表される時期が重なってるじゃんっ!
あさみが天使のこと書いてたなんて最近になって知ったんだからっ!」
少しふくれてこう言い返したのも きっと誰かに言って貰いたいからなのかも・・ 
「あさみとみらいって似てるよねぇ〜〜」って。
このとき 少し呆れた顔で言われた言葉・・
「お前ホントにあさみのことスキなんだなぁ(笑)」
「うんっ♪ダイスキっ♪あんたのことよりスキかもねぇっ♪」
こう言い返したときの私は・・ きっと世界1幸せな顔してたって思う。(笑)



こんなメールを書いてきてくれるみらいのことが、あたくしも大好きだった。


「キネマの天地」の公演初日。
あたくしのところに、それは立派な蘭の鉢植えが「MAKOTO」の名前で届いた。
それには手紙が添えてあり、そこにはこうあった。

・・・・今までにスタッフとして沢山の人たちにお花を出してきました。
・・・・この名前で私がお花を贈ることはこれが最後です。
・・・・あなたも言ってましたよね。
・・・・この名前で舞台に立つのは、これが最後だと。
・・・・こんな不思議なことがあるんだね。

「MAKOTO」として贈られた花をあたくしが本名で受け取る。
あたくしはこの公演を境に、本名ではなく「日野 夕雅」になることを決意していた。
舞台に上がったり、モノカキとしても書いたものを発表する時は
全てこの名前でいく・・・・そう決めていた。


みらいは、この後、持病の薬が原因で、肝臓ガンにおかされた。
あたくしはみらいに会いたくて会いたくて、横須賀の病院を訪ねたけれど
みらいは会ってくれなかった。
自分の患っている姿や弱り果てている姿を、
あたくしにだけは見せたくなかったんだと思う。
みらいは一所懸命、自分の病気と闘って、今は美容師として復帰していると聞いた。


連絡は今、ほぼ途絶えたままだ。
あたくしから電話をすればいいのかもしれないけれど、
何となく怖いような気がして、できないままだ。
多分、みらいが期待していたような輝きを、あたくしが今、放っていないからなんだと思う。
こんなことを書くと、あの、こあい姉ちゃん・みらいに叱られそうだが、
でも叱られても仕方ないだろうな・・・・。
3年前のすごくあったかいメールを読み返して、あたくしは新しい勇気をもらった。
いじけて、舞台に立てない自分を恨んで、ひきこもっているあたくしは
多分、あと1度くらいは輝けるんじゃないか・・・・って。
みらいが10年かけて手に入れた感動を、あたくしがほんの数年で手に入れられるわけがない。
辛抱・・・・もう少し辛抱してみよう。
そう思った。

↑心配いらねぇか♪

あたくしが元気にしていたら、きっとこの地球上のどこかで、姉ちゃんもきっと元気なんだ。
ここまでのシンクロ性を発揮しているんだから(笑)。

あさみ


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あなたの毎日にずぅむいん・・・・

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