敗北を喫した昼飯抗争に反旗を翻すときがきた。 仕事で訪れた小樽のはずれにある小さな漁港。そこで空腹の私を待ち受けていたのは、新鮮な海の幸を真っ向勝負で「刺身」か「塩焼き」で供する食堂だった。相手に不足はない。 「にしん焼定食スペシャル」 にしんの塩焼きに刺身のついた、いかにもボリュームいっぱいの定食を注文する。スペシャルだぜ? スペシャル! 今日の私は闘う気満々だ。 果たして運ばれてきたソレは、期待に違わない盛り。30センチはゆうにあろうかという大型のニシン丸ごと一匹の塩焼き、松前漬、自家製塩辛、ホタテの稚貝入ワカメ味噌汁、イカとホタテの刺身、漬物、御飯。まさにまさに先般の敗北を逆転勝訴に持ち込むに足る内容だ。 炭火で燻されこんがりと焼かれたニシンの皮と身を箸先で掴み、大根おろしと共にほおばる。ふわっと火のとおった白身が絶品。よし、イケル! 心が躍った。小骨の多いニシンを箸で崩しつつ、パリパリに焼けた皮と大根おろしのバランスも絶妙に箸でひと口大にまとめあげては口に運ぶ。追って白飯。箸休めに松前漬の粘りある食感や、塩辛のしょっぱさをアクセントにしてまた白飯とニシン。そのリズミカルな食事のさまは、我ながら実に「喰いっぷり」のよいものだと感じた。先日とはうって変わって最後までスピードが落ちないまま、フィニッシュを迎える。米粒ひとつ見逃さない。 勝った。 私は勝利を確認した。そしてゆっくりと茶をすすり、悠然と金を払って店をあとにしたのである。 がしかし、それから約6時間後に私が感じていたのは、勝利の歓喜ではなく、なぜか敗北感だった。たしかに私はきれいに平らげた。それはいい。そこでは勝利した。しかし、である。当然「夕食」を欲すべき午後9時になってもなお、胃には昼のニシン定食スペシャルが居座っているような感覚だった。満腹というにもほどがある。ひょっとしたら消化能力が著しく低下してるのではないかと疑うほどに、私の脳下垂体は空腹信号を出してくれない。それどころか赤信号だ。止まれ、すなわち「喰うな」ってことだ。 午前2時。いっこうに腹は減らない。だが「晩飯を喰う」という精神的充足は得られず、飢えている。肉体と精神の不整合。 結局、すきっ腹を抱えているような気分の満腹感のまま、眠りにつくことになりそうだ。試合には勝ったが勝負に負けた…そういう気持ちだ。 私はまた負けたのか?
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