にのらです。
映画観てたらお風呂の時間が近づいてきたので、小話だけのせて 本日は〆んとす。

大粒の雨が地上を激しく叩きつけている。 バルコニーに出てそれを受けながらロマーノは軽く舌を打った。 頬に当たる雨粒は痛いほど強く、目を開けているのも難しい。 一度瞬きをしたら、閉じた瞼の上を大量の水が流れていって、 再び目を開くのを邪魔するのだ。
もうすぐ、約束の時間だ。
海上は荒れていたから、スペインは陸から迎えに来るだろう。
目をギリギリまで細めて、なんとか先をうかがおうとしていたら、 背後でキイと扉の開く音がした。
「朝はあんなに天気がよかったのに… スペイン兄ちゃんちゃんと来れるかなあ」
ヴェネチアーノが眉尻を下げながら、バルコニーの扉を少し開けて 首だけ出している。ロマーノとは違う、優しい茶色のたれ目が 困り果てたように空を見上げる。下向きに丸まったくせっ毛が フヨフヨと揺れて、何かかわいらしいおもちゃみたいだ。
ヴェネチアーノはいつだって可愛い。思わず目をそらしてしまう。
さっきより少し大きく扉を開けて、ロマーノと同じ場所で スペインを待とうと歩み寄ってくるのを片手で止めた。
「入っとけよ、雨が部屋に吹き込んでる。濡れて風邪引くぞ」
「兄ちゃんこそ」
「俺はいいんだ」
そうだ。 スペインが濡れねずみで到着する時には、同じように濡れていたい。 少しでも迎えに来させた罪悪感を減らしたいし、こんなにびしょぬれに なりながらもオマエ恋しさに暖かい部屋でのうのうと待ってなんか いられなかったと、無言の愛を囁ける。
同じように濡れて待とうとしたヴェネチアーノを部屋から出ないように したのも、何も本当に弟が風邪を引かないように気遣ったわけではない。
「(どちらがよりオマエを愛してるか、わかりやすいだろ?)」
たくさん濡れてふるえながら待っている方が、オマエのロマーノだ。 遥かな丘陵にいずれ見えてくるだろう男に胸の中で呼びかける。
弟がスペインに寄せる気持ちが恋慕でないことくらい知っている。 スペインだって、彼を溺愛しながらもその目はまるで親鳥そのものだ。 でも、そんな親子や兄弟のようなほのぼのとした感情がある日突然 恋に変わることを、ロマーノはその身をもって知っていた。
そして、最悪もしヴェネチアーノが自分と同じようにスペインを愛しいと 思うようになったら、正直勝てる気がしないのだ。
「そんな事になったら殺すぞちきしょう」
「なんか言った?兄ちゃん」
「何も言ってねえよ」
今から丘まで迎えに行って、そのままここに立ち寄らせないで その足でスペインの家に帰ろうか。
「(迎えになんか、来させるんじゃなかった)」
ロマの恋心を思うと、風呂を忘れそうです。 が、入ってきます。
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