にのらの日記

2007年06月11日(月) 千石バサラ





片目を失った俺を跡部は自分がえぐったことなんて忘れて
笑うか気味悪がるかどちらにせよいい気はしないだろうと
思ったが案の定ぞんざいに硬い布を引っ張って傷口を不躾に
じろじろと眺めた後で口の端を持ち上げて乱暴に眼帯を
下ろしたから俺は痒みを覚え始めた瞼を手で覆って「ひどいなあ」と
薄い笑いでごまかすのが精一杯だった。

悔しいがこのわけの分からない状況では縋れるのは跡部だけだ。

気付いたらここにいて、片目を抑えて呻いていた。
日本史の資料集なんかで見かけたような格好のオッサン達が
槍やら刀やらを振り回して狂ったような声で喚いていて、
そうこうしている内に身体を踏みつけられた。あまりの痛さに
死ぬなと思った時、跡部に腕を救われた。申し訳ないが、
跡部が目に入った瞬間「殺される」と思った。日ごろの行いが
悪いせいだよ、跡部。

かくして俺はわけもわからないままに跡部に担がれるようにして
破れ寺の軒下に転がされた。跡部が何か言いながら、どこで
手に入れたのかも分からない短刀を大して清潔とも思えない
布キレで拭っている。遠ざかる意識の中でなんとなく、
目を抉られるんだろうな・・と悟って悲しくなった。せめて、
せめて火で炙って消毒して欲しいと、足の水ぶくれですら
焼いた針を使うのに、そんな便所でケツ拭いたみたいな布で
拭っただけの刀を使うのはやめて欲しい。と思いながら
俺は完全に意識を飛ばした。

どうやらこの世界(何か基準となる目印を立てて位置づけるには
あまりに方向性が定まらない)には、あんな杜撰な手当てでも
命を落とさない曖昧さがまかり通っているらしい。かくして
俺の右目は跡部に奪われたが、傷はいつしか激しい痒みを持つ
までに回復していた。恐ろしくいい加減な時間軸を持っている。

話は戻って、跡部は俺の目玉が入っていた場所をぞんざいに
扱ってくれたわけだが、そもそもが無理な設定だから
もしかしたら跡部の長い舌が傷ついた目を掘り返すように舐める
とかの変態じみた展開が起こるんじゃないかと構えたが
幸いそうそう趣向は持たないようで、そういえば跡部は
自分が一旦存在を認めたものに対してはそれがいかに
目を背けたくなるような矮に形を変えようとも自分に牙をむこうとも
無関心を疑いたくなるくらい寛大になるのだったと気付く。

「役割が、あるそうだよ」

嫌われなかったついでにおそるおそる切り出してみる。
誰から教わったわけでもないが、どういうわけか千石は知っていた。
そして片目を失うことも必然であったのだとも分かっていた。
この世界の事、そして自分と跡部が今どういう立場にいるのかを。

この世界では、跡部は千石の失われた右目に代わって彼を守る
保護者の立場をとる。多くの友を従えた若い集団のトップに
立ち、時に危険を省みず前進するために後ろががら空きになる
ことも多々あるらしい。跡部は影のようにそこに居て、そんな
千石を崇拝し守り抜くことを誓っているのだ。

最初、自分が主役でないことに少し驚いた様子だった跡部が
意外なことにその役割を了解した。

「そうしねえと、千石、おまえが危険な目にあうんだろ」

思いがけない跡部の思考に見開いた目が片目しかないのがもどかしかった。
けれどここにきて、目の代償に得たものの甘さにクラリときた。同時に思う。
跡部は思った以上の馬鹿だ。この急激な展開を飲み込んで咀嚼した。

こういう男だから負けないのだろう。





にのらです。

もちろん千石の夢オチです。
バサラを政宗でやりすぎた千石が疲れて変な夢を見ちゃったのでした。
キリ番申告をしてくださった方へのお礼のつもりですが、絵が
間に合わなかった・・・!


にのらでった!








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