にのらです。
午後23時。隣の部屋では赤子が泣いている。 次女の徘徊は続いている。 お風呂の蓋にケロヨンが7匹並んでいる。 蓋を開ければアヒルが浴槽を泳いでいる。 おかずの一個一個が小さめ。
元就がものすっごい世話好きで子供好きやとかわいい。 何か父性本能が爆発するスイッチが一杯あって。
晴天の5月は正午にもなると太陽が夏の予行演習でも開いたかのように 暑くなる。半裸で船に乗り、勇ましげに声を張り上げ元気な振りを してみても、内心白い肌が焼けるのが嫌だと元親は思っている。
安芸も同様に快晴だ。 元就の居城は相変わらず清廉で涼しげな佇まいだったが、城主が こよなく愛する日輪の恵みを喜ばないはずもなく、そんな主の 上機嫌が城の下々の者にいたるまでをなんとなく明るくしている ように見える。
予想通り元就は、常に無いほど明るい(付き合いが深まれば何とか 読み取れるようになるくらいわずかな変化ではあったが)表情で 元親を出迎えてくれた。道中暑かったであろう、と珍しいねぎらいの 言葉まで惜しまずに送ってくれた。
「まずは茶でも飲むが良い」元就は冷めた茶を勧めてくる。
これに元親の心も少しばかり調子付いてしまったかもしれない。
思わず「明日は雨になるかもな」と言ったのが悪かった。 元就の機嫌が悲しくも元親の来訪を喜んでのことではなく晴天の おかげなのを思うとそんな余計な発言も自然と引っ込むべきであった。 空気が険悪に、正確にはいつもどおりになるのを肌で感じる。
「うわ」
動揺した元親は思わず手元を狂わせ、茶が滴った。 こぼれた茶は元親の着物の股間部分に盛大に広がる。
「やべ〜…もらしちまったみてえ」
場を取り繕うつもりで事態を笑いに替えようと元親が上目で元就を 見る。元親は彼の様子がおかしいのに気付いた。
「元親!何、気にすることはないぞ!そなたは男子であろう そのような事で落胆していては戦場で命を落とすぞ」
「・・・元就さん?」
元就は踊るように元親に飛び掛り、懐から取り出した懐紙で 元親の股間を熱心に拭う。
「しょうのない子だが、まだ幼き故仕方あるまい 皆には黙っておいてやるぞ?ん?」
その眼差しの暖かさは、元親から、股間を弄られているという やましい事実を懐紙に含まれた茶と一緒にそっくり拭い去るほどの 圧力であったという。
後にそれは、「元就様の母上帰り」と呼ばれる現象である事が それとなく城の者から聞かされた。過去にも沢山のものが 食べこぼしを拾って口に入れられる、刺さった棘を懇切丁寧に 抜き取られる、口内炎を覗き込まれる、魚をほぐして与えよう としてくる、などの異様な行動の犠牲になったとかならなかったとか。
という、ちょっと人に愛、与えてみたいな、でもどうしたら いいのかわからないな、みたいな欲望が高じてザビー教に 入信していたらかわいいのに。
・・・寝ます。
|