にっきちゃん。

2002年06月15日(土) 自分の存在意義がわからなかった あの時 あの場所

旅行から帰ってきた。
そう、おととい。

実は行って来たのはあたしが働いていた伊豆の旅館、T館。


どうだった?
楽しかった?


タダイマとおみやげのわさびを渡したあたしに、母厚子が問い掛ける。


「わかんない・・・・・・」


そう言って自分の部屋に逃げた。
それしか言えなかった。

どう?
どうだったの?



・・・・・・楽しくなんかないよ。
悲しかった。
自分でも意外だった。


あたしはその夜、客室のベランダで蚊に刺されながら泣いた。
あたしのいろいろを知っているこの海の前で泣いた。


自分の体が今どこでどう、何を思い存在しているのか
その意味がわからなかった。
あたしは今、ココで何をしているの?



夕食の味?
何一つ覚えていない。
ううん、食べている時だってあたしは何をどう口に運んでいたのかも
わからない。

温泉のたゆたい?
ううん、あたしは今まで何度も汗を流してきたあの露天風呂で
どこをどう歩いて体を洗い、湯船につかったのか全く覚えていない。


きっと「いらっしゃいませ。よく来たね、お帰りあや。」
みんなそう言ってくれた。
入り口で昔の戦友が抱き締めてくれたのをなんとなく覚えている。
「今日はゆっくりしてくんだぞー。お客さんなんだからねっ。」
「はい!ありがとうございます!」
きっと私はそう言って抱き締め返していたんだろう。



昔お客様に「どうぞおかけくださいませ」とすすめながら
ずっとずっと自分も座ることに憧れていたふかふかの座布団。
始めて座ったら・・・・・・あまりのやわらかさに驚いた。
この、座布団すごい・・・!
でも・・・・・・ちっとも嬉しくなんかなかった。
あたしは、ざぶとんをはずして畳に座った。


ずっとずっと憧れていたお客さん用のキレイなエレベーター。
気付けば一度も乗らずに毎回階段で上り下りしていた。




あたしは今日は、お客さんなんだ。
ココに、泊まりに来たんだよ。

ねぇ、・・・・・・ごはんはおいしかった?
仲居さんの笑顔にいやされた?
静かな波の音を聞きながらお部屋でゆっくり出来た?


・・・・・・ううん、やっぱり覚えていない。
わからない。




ただ覚えているのは、


夕食の時隣のテーブルに座っていたお客さんの嬉しそうな笑顔。

温泉につかって「いやぁー、最高だねぇ。また来たいねぇ。」
と言っていた幸せそうなおばあちゃんたちの声。

廊下を歩きながら「どんなお刺身が食べられるのかな」って話していた
家族の嬉しそうな顔。

迷子になっていたおじいちゃんをお風呂まで案内してあげた時の
「ありがとうおねえさん、いやー、助かったよー」と言った
おじいちゃんの浴衣姿。


嬉しそうなお客さんの笑顔。
幸せそうなお客さんの笑顔。
またこようね、って言い合ってたお客さんの、



明るい、明るい、笑い声。




そして、昔も 今も 変わっていなかった、

女将さんの

優しい優しい

笑い皺。





















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綾 [MAIL]

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