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■どうもイライラ／ellipsis_1_4_5_backup■
この頃、週初めは、かなりイライラする。
原因はよく分からないが、登校直後が一番ヒドイ。
大学の狭い敷地にも腹が立つが、なによりもウルサイのが耐えられない。
バカ騒ぎせんと、会話が成立させられないヤツらがいる。
バカ騒ぎだけに、そんな連中が、バカっぽく見えて仕方ない。
大した用がないなら、大学来るなって。
遊ぶんなら、河原町でも行け。
さっさと帰れよ。
邪魔なんだ。
Ellipsisへの語用論的アプローチ
０．Introduction
ellipsisは，至る所に存在する．我々が会話をする際に，文法的に整っている文，つまり，要素が全て揃った文を発することは，あまり無いように思われる．逆に言えば，要素の欠落した文を述べて，意志を伝えることの方が多いということである．以下は，私が実際に交わした会話である．
(1) Woman: Motoyama Station?
I: Go straight.
駅名だけを告げられた私は，さほど考える間もなく，“Go straight.”と答えた．この場合，女性の発言においては， 疑問詞と動詞の“Where is”が欠落している．また，私の発言においても，前置詞句の “along the street”を添えなかった．このように，語の削除を起こしているケースは，日常でも多く見られるはずである．では，なぜ，この会話は，問題なく成立したのであろうか．この会話が交わされた時，彼女は，困った顔をしていたし，地図を持っていた．そのような「状況」で，駅名だけを告げられた私は，考える間も無く，女性が駅の場所が分からず，そのことを私に尋ねていることだと分かった．また，私も，“Go straight”とだけ答え，“along the street”を付け加えることはなかった．“Go straight”と言われれば，今歩いている「道に沿って」進むということは明白であり，自然と前置詞句を削除したのである．ここでの関心事は，如何にして語句の欠落が生じ，それによって生まれるであろう表現効果が何であるかである．
本稿の目的は，ellipsisという現象に対して与えられていた，復元可能性の有無という従来の基準に対し，新たな基準を設け，それに基づいたellipsisの分類と効果の考察を行うことにある．
本論文の構成は，以下の通りである．第１章では，ellipsisに関する文法書の記述から，それらの説明では，ellipsisの十分な説明にはならないことを示す．続いて，統語的な削除を，にこの現象を捉え切ろうとするところに，無理が生じていることを明らかにしていきたい．その上で，私なりのellipsisの定義を提示する．第２章では，新たな定義の元に，syntactic ellipsisに対して，pragmatic ellipsisを提案し，いくつかの事例を考察していく．第３章では，これらのellipsisがもたらす効果について考えてみたい．第４章でまとめを行い，最後に，今後の課題を示す．
１． What is Ellipsis?
文章や会話の中で，語が欠落している現象に対し，ellipsisという語が与えられている．しかしながら，その定義は，非常に不明瞭なものである．統語的視点に基づく辞書や文法書の記述から，ellipsisの定義付けの難しさを感じることができる．
１．１ 辞書による定義
Merriam-Webster Onlineでellipsisを検索した．定義は，以下の通りである．
(2) the omission of one or more words that are obviously understood but that must be supplied to make a construction grammatically complete
ここでは，「文法的に正しく復元できる語句の削除」とある．つまり，削除される前に，前文で用いられていた語の存在が，ellipsisに必要な条件となる．すなわち，「復元可能性」(recoverability)がなければ，語の削除は行えない，ということである．
次に，3冊の文法辞典を挙げ，ellipsisに関する記述や用例を見ていくことにする．ここからも，ellipsisが，極めて定義のしづらいものであるかがわかるであろう．
１．２ 文法書の記述
１．２．１ A Comprehensive Grammar of the English Language (1985)
Quark et al. (1985: 884-7) によれば，ellipsisは，“the boundaries of ellipsis are unclear”とされ，その定義の難しさが認められている．しかしながら，ellipsisと判断する上での，５つの基準が提示されている．今回取り上げる大規模な文法書の中で，この文献のみが，省略と見なす上での基準を提示している．
(3) Criteria for ellipsis
(a) The ellipted words are precisely recoverable
She can't sing tonight, so she won't .
(b) The elliptical construction is grammatically 'defective'
Visit me tomorrow, if you wish (to visit me tomorrow).
(c) The insertion of the missing words results in grammatical sentence
��. He always wakes up earlier than I wake up.
��. *He always wakes up earlier than me wake up.
(d) The missing word(s) are textually recoverable, and
(e) are present in the text in exactly the same form
She might sing tonight, but I don't think she will .
She rarely sings, so I don't think she will tonight.
以上の５つの基準のうち，どれかひとつが満たされていれば，ellipsisが生じたものとして扱うことになっている．ここでは，ほとんどが複文のみの例が紹介されている．しかし，実際には，次のように，復元できる内容にあいまいさが生じているケースも存在する．
(4) "If you get any information, will you let me know?"
"You'll be the first," - Sidney Sheldon, Best Laid Plans
ここでは，２つのellipsisが見て取れる．まず，“let me know”の後の目的語が削除されている．これは，条件節の中での目的語と一致しており，機械的に削除されたものである．
注目すべきは，もう１つの“the first”の後ろで生じているellipsisである．一体，話者が何の一番手となるかは，言語的文脈からだけでは，明らかにできない．この部分は，会話の参加者たちにしか分かり得ない事柄である．この会話では，to get informationを補うことになるが，これを補うのに必要なのは，「状況」である．最初の発言から補えないこともない（言語的文脈からの復元も可能ではある）が，toは，前文において全く表出していない要素であるし，何の一番手であるかという決定は，状況に依存したものである．よって，失われた要素を補うためには，言語文脈からだけではなく，「状況」も必要であるということが言える．何らかの状況がなければ，この発話に，明確なる意味を持たせることはできない．つまり，“situational context”が，その内容を決定づけているのである．また，この発話については，それまでに存在したであろう言語的文脈から復元可能かどうかと考えると，非常に疑わしい．つまり，統語的に処理し切れそうで，実際には処理し切ることのできない事例の一つだと言えよう．
このように，彼らの提案した条件には当てはめにくいellipsisが存在していることが分かる．また，例として挙げられている文が，従属節などが用いられた複文がほとんどであり，談話におけるellipsisが扱われていないということも問題だと言える．
１．２．２ Longman Grammar of Spoken and Written English (1999)
Biber et al. (1999) によるellipsisの定義は以下の通りである．
(5) ellipsis is the omission of elements which are precisely recoverable from the linguistic or situational context.
ここでは，“linguistic context”と“situational context”の両方が用いられ，言語的文脈だけでは，ellipsisを処理しきれないことを認めているように思われる．なお，このsituational contextについては，削除されたものが明確でないとして，要素の追加は行われていない．その例文を以下に記す．<->が，ellipsisの生じている箇所である．
(6) And we got our furniture - in this place and there's a story in this one - So we <-> to the hardware shop and we bought some mats and - dishes and - God knows what!
このことから，やはり，文法的にellipsisをとらえきろうとすることに無理がある．したがって，ellipsisを考える上で，状況が必要とされていることは，明白ある．
なお，この文献では，主に，textual ellipsisを取り上げ，等位節・比較節におけるellipsisなどを記述している．会話文も含めた例文が複数挙げられているものの，前文から考えて復元可能な要素を機械的に復元しているのみで，ellipsisの生じる規則や，その効果に関する記述は，やはり見当たらない．
１．２．３ The Cambridge Grammar of the English Language (2002)
この文法書は，今年出版された最新のものである．しかしながら，Biber et al.(1999)と同様に，ellipsisが起こったケースを挙げ，削除された要素の復元を行っているだけである．主に，疑問文を取り上げ，前方照応の概念に沿って，復元が行われている．一連の例文は，以下の通りである．
a. A: When did she get home?
b. A: Why did they sack him?
c. A: What did she give you?
d. A: What were they doing? B: Yesterday morning.
B: Because he's incompetent.
B: A t-shirt.
B: Playing cards
(7)
この場合，応答文の中で，主語と動詞が削除されていることが分かる．一般的に言えば，新情報は残し，旧情報は削除するというわけである．これは，言語的文脈から，削除された要素を復元できると判断されるために，ellipsisが行えるとするケースである．
この文法書においても，「復元可能な要素が存在しているからこそ，特定の要素を省略できる」という立場にあると考えられる．総じて，文法的に削除されたもの，つまり，後に復元して，文法的に正しいと判断できる文を生成し直すことができる場合に限って，省略は行えるということである．
このように，辞書・文法書の記述を見てくると，「省略」と言われた時に，必ずといって良いほど，“復元可能性”(recoverability)の有無が問われる．そして，統語的には，この復元可能性がある場合に限り，省略は行えるものとされている．この時，考えたいことは，復元可能性がゼロの場合である．このようなケースは，存在しないのだろうか．いや，実際には多く存在しているのである．その一例を以下に示す．
(8) A: Can you help me?
B: Sorry, I have something to do [so I can't help you].
依頼をされた状況下で，“Sorry”という謝罪と，“I have something to do”という手伝うことのできない理由を説明することにより，最終的には，手伝うことができないという「断り」を伝えている．依頼された側は，当然，断りを一番に伝えたいのであり，依頼主は，聞き手に言われた状態から，手伝うことができないという結果を導き，察知している．この「手伝えない」という言外の意味は，元来存在する言語要素から復元されたものではないことは明らかである．そして，言語的文脈に依存しないという点からして，復元可能性はゼロということになる．これは，状況が生み出した意味である．
ここで，「復元」について再考したい．「復元」とは，元来存在していたものを復活させることであるが，今回扱うようなellipsisは，例文(7)でも見たように，必ずしも，元来存在していた要素を含んでおらず，ゼロの状態から新たな意味を付加している．このような場合，「復元」という表現は不適切であり，意味・意図の「追加」，もしくは「補充」とすべきだと考える． したがって，「復元可能性」とするよりも，「補充可能性」という表現の方が，より広範囲のellipsisを扱うことができるものと考えられる．このように考えていくと，ellipsisを「省略」と訳すことにも，問題があるように思われる．
これまで見てきたように，存在していたものを削除することのみが“ellipsis”とされることには，限界があるのではないだろうか．つまり，ellipsisに対して，もう少し範囲を広げた定義を与える必要があると思われる．そこで，私の考えるellipsisの基準として，言語的文脈から復元できるものに加え，言語としては表現されていないものの，状況からして，要素や意図を「補充し得る」，もしくは「生み出す」ことができる場合も，ellipsisの一種として扱うことにしたい．つまりは，（言語的文脈からの）復元可能性がゼロの場合をも，ellipsisに含めるということである．
１．３ 統語的観点の問題点と限界
ここでは，前章でのellipsisに対する統語的考察の問題点と限界をまとめていくことにしたい．それらは，以下の４つに集約されると考えられる．
1. 前方照応や言語的文脈による機械的な削除がほとんど．
統語的な考察からは，例文(1)のように，「前文に同じ表現がある，だからそれ以降では削除される」という機械的な削除を取り扱うにとどまってしまっている．会話においては，“[Is] Nobody there”や “[Is] Anybody home? ”といった先行文脈に全く依存することなく，ある要素（この場合は，動詞）が削除されるケースもある．また， (7) で挙げたような状況（situational context）に依存したellipsisも存在し，これは，統語的な削除としては扱いきれない事例である．
2. 削除できないケースについて，明確な説明がない．
統語的には，省略可能と考えられるにもかかわらず，実際には省略できないケースがある．その例を，以下に挙げる．
(9) Were you born in 1960?
* Yes I was born (in 1960).
この時，話し手が知りたいと思っているのは，聞き手が1960年に生まれたかどうかである．つまり，“in 1960”は，会話の当事者たちにとって，情報としての価値が高い．そのような場合は，統語的に，前文における言語的文脈からの削除が可能であっても，情報としては，残されていなければならない．このように，復元可能な要素が，常に省略できるとは限らないのである．これについては，統語的な規則だけではなく，会話の内容，もしくは，情報構造が，語の削除に影響していることが分かる．このような場合に対する説明が，統語的観点から見た際には，見られない．
3. 削除された要素の補充方法，あるいは，ellipsisの認知過程が不明確．
ellipsisが生じた時，例文(4)のように，発話の理解のため，削除された要素を推測し，補う必要が出てくる．統語的観点からは，前文にあった内容からの「復元」が，唯一の補充方法であった．しかし，それだけではなく，「状況から推測する」という新たな補充方法も考えられる．これは，統語的考察では見られない補充方法である．
4. 受け手への効果について論じられていない．
ellipsisが，どのようにして生じるのか，なぜ生じるのかについては，既に多くの知見が得られている．しかしながら，eliipsisが，どのような効果を持つのかについての研究は，さほど多く見かけない．もちろん，表出しているものだけを扱う統語的観点からは，効果という目に見えない現象について，ほとんど全く考察されていない．統語論において，表出しないものについて考察しないこと自体は，尤もなことであるけれども，それだけでは，ellipsisの説明として，やはり不十分なものであると思われる．
このように，統語的観点からみたellipsisでは，対応しきれないケースが多分に存在し，ellipsisに対する理解が，不十分なままであると考えられる．したがって，これらの問題点を解消すべく，語用論的観点から，ellipsisに対する考察を加える必要が出てくるものと思われる．
そこで，前述したように，「状況からして，要素や意図を『補充し得る』，もしくは『生み出す』ことができるという新たな条件の導入により，ellipsisをsyntactic ellipsisとpragamatic ellipsisとの２つに分類することにしたい．syntactic ellipsisは，言語的文脈から判断して行える，従来のellipsisのことである．言語として表出しているものを用いて，確実に補える，つまり，「復元」できるものがあれば，そこで生じているのは，syntactic ellipsisということになる．
(10) Arley: I smell horrible.
Trevor McKenney: No you don't! You smell like a rose or something.
Arley: Are you sure?
Trevor McKenney: Yeah, yeah, I'm sure. - Pay It Forward
ここでは，“Are you sure? ”と，“I'm sure. ”の後部でellipsisが生じている．この場合，先行文脈から考えて，Are you sure [I smell like a rose or something]?と，I'm sure [you smell like a rose or something].という文法的に正しい文を復元することが可能である．したがって，このellipsisは，syntactic ellipsisに分類されることになる．
syntactic ellipsisについては，省略が起こっている要素ごとに分類され，既に多くの研究がなされている．なお，本稿では，syntactic ellipsisについては，これ以上の考察は行わず，pragmatic ellipsisに焦点を当てて考察していくことにしたい．
４．Conclusion
本稿では，ellipsisという，普段の言語活動の中で，我々が意識しない現象について，語用論的観点から考察を試みた．まず始めに，具体的な事例を文法書の記述から，言語的文脈から起こる機械的な削除として，ellipsisを定義づけることには，限界があることを見てきた．個々の文章や，書き言葉に対してのellipsisに関する分析は，多くなされてきた．結果として，統語的な観点からのみの分析が行われ，ellipsisが新たに生み出す意味や効果については，論じられることがほとんどないという実情があった．そして，具体的な例文を挙げて，統語的観点からだけではなく，機能的・語用論的観点からのellipsisの考察が必要であることを示した．そこから，ellipsisが起こる条件として，「言語的文脈から復元できること」という従来のものに加えて，「状況から，意味を補うことができること」という新たなものを提唱した．その上で，syntactic ellipsisとpragmatic ellipsisという２種類のellipsisに分類し，それらがもたらす，言葉の経済性や，リズム形成という，受け手に対する効果について論じた．
５．今後の課題／おわりに
ellipsisを単なる統語的な語の削除現象として捉えるにとどまらず，語用論的観点からも考察を行った．また，同時に，単なる一文だけを扱うのではなく，状況が設定された人々の会話，つまり，談話（discourse）レヴェルにまで考察対象を拡げてきた．今後は，この談話レヴェルにおけるellipsisについて，状況や削除される要素を分類し，整理することを課題としたい．
【Notes】
1. 演繹とは，「前提に対して正当な論理学的規則を適用すれば，必然的に正しい結論が得られる」推論法である．ここでいう，正当な論理学的規則とは，「もし〜なら，…であり，そして〜である．ゆえに…である」という推論である．
【References】
Biber, D., S. Johansson, G. Leech, S. Conrad, & E.Finegan (1999). Longman Grammar of Spoken and Written English Longman.
H. G. Widdowson (1978). Teaching Language as Communication OUP
Huddleston, R. & G.K. Pullum (2002). The Cambridge Grammar of the English Language Cambridge University Press.
今井邦彦 (2001).『語用論への招待』. 大修館
久野すすむ (1978). 『談話の文法』. 大修館
Peter Wilson (2000). Mind the Gap. Longman
Quark et al. (1985). A Comprehensive Grammar of the English Language Longman
Merriam-Webster Online (http://www.m-w.com)
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