Land of Riches


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 2015年05月24日(日)   信仰と静寂 

東向きの部屋は朝早く目が覚める…と毎年夏が近づくと書いている気もしますが、
眠いけど頑張って忘れないうちに福岡とうらぶメイン遠征の思い出を殴り書き。

当初の予定ではホテルでぐっすり寝る(某作家がストレス発散のために
掃除等しなくていいホテル滞在を推奨してたけど、最近すごく分かるようになった。
何もしないという贅沢)つもりが前日の自爆により、朝7時過ぎには
福岡空港に荷物を預けるべく出発するというプロローグ付き太宰府行きに。

審神者(=刀剣乱舞プレーヤー)に北九州遠征が大流行してますけど、
福岡から熊本まで南下、あるいは逆に北上する彼女たちと違って
私は試合開始時刻が決まっている(しかも今回は13時)サッカーとの抱き合わせ。
これも自業自得なのですが、元来のスケジュールでも変更後でも、九博は90分滞在が限度。
トーハクよりも常設が充実しているという噂も聞いていて、びくびくしながら向かいました。

朝8時半、太宰府天満宮本殿の前にたたずむ少なからぬ人々。お賽銭を投げる人はおらず、
皆さん黙って屋内の神主が捧げる祝詞に耳を傾けています。脇には巫女さんたちずらり。
二礼二泊一礼を二度。天満宮のHP見ても成田山みたいにタイムスケジュールないので
実際にどんな行事なのか分かりませんが、何十人もが一斉に手を叩く、
それだけで妙に気が引き締まるようで、悪くない気分で一日を始められました。
(神主さんが参拝客も祓って下さいましたし)

九博は9時半OPENなので、9時開館の宝物殿へ。ここにも何振りもの刀が展示されていると
教えて下さる(しかも西鉄の切符だと割引になるとも)先達がいるから寄れたのです。

いきなり黒田長政、平重盛(驚いたけど、元寇以降の風習である彫刻があったから微妙)奉納と
私的に凄い二振りを上下に並べてくる流石の信仰ぶりを見せつけてきた天満宮。
参加できなかった前日の九博刀剣講座レポが、先程の元寇以降という情報や、
目釘穴は拵えを替えた回数…と予備知識をくれて、お陰で深く味わえました。

奉納されただけあって、目釘穴は前述の二振り含めほとんどが1つだけ、
多くても2つ(へし切が4、江雪が5と常用された物は穴がやたら開いている)、
野太刀に至っては一つもなかったりしました。神に捧げるために打たれた物ですね。

また、連歌が好き過ぎて歌の才人でもあった菅原道真を慕ってこの地に転居した
経歴を持つ黒田官兵衛(当時使っていた井戸の周りには、昨年の大河ドラマから
残っているゆかりの地フラッグがずらり。後ろには1988年に造られたという
彼を祀る社が…へし切クラスタとしては参拝せざるをえなかったです(苦笑))の書状も。
前日見た福岡市博物館の遺言書状と筆跡が同じだ!と感じ取れました。
(なお、この二日間でやたら見たのは信長と秀吉の朱印状。印影覚えるくらい見た)

九博開館まで15分となったので、長いエスカレータ+動く歩道(と言っても
東京駅の京葉線ホームほどではない)で目的地へ。80人ぐらい待機客がいて
ビックリしましたが、ほとんどは3F(戦国大名の特別展)へ吸い込まれていきました。

4Fの常設へ向かう人は片手で数えるほど、日本とアジアの交流をテーマに据えた展示は
係員や警備員の方が多いくらい閑散としていて、じっくり見たいところですが駆け足で鑑賞。
テーマが尖っているだけに、取り上げている時代もスポット的になります。
(古代の文明流入、遣唐使、博多のチャイナタウン、元寇、秀吉の朝鮮侵略etc.)

そんな中、1室だけ人がたくさんいるのが…はい、刀剣のスポット展示。
いや、常設に入った途端、中世刀剣の美はこちら、という看板があるくらい
九博側も需要を把握しているわけですが…アジアの工芸、と冠せられた部屋に
日本刀の小松コレクションが並ぶのは、合っているようで不思議です。

この部屋がメインなので、2周してじっくり見ました。
ふくやま美術館に寄託されている、一法人の私有コレクション。
国宝7+重要文化財5という恐るべき編成だけあって、破壊力抜群でした。

twitterで熊本の玉名(同田貫所蔵の)にある博物館の方が、
刀はズラリと並べるとまた違うものが伝わってくる…という趣旨の発言を
されていたというのを見かけたのですが、小松コレクションは、まさにそれでした。

1振り1振りも他なら目玉としてセンターで展示できるレベルの、さまざまな流派の傑作。
並べることで相違点も分かるのですが…とにかく圧倒されました。
拵えが一緒に展示されることってあまり多くないのですが、このコレクションは
毛色が全て異なる流麗な拵えが4点付属しているのも素晴らしいです。
(一番派手な梨地桐紋蒔絵糸巻太刀拵が蜂須賀家伝来なので、審神者としては、つい(笑))

実際に壁際ではなく中央のケースで展示されていたのは、左文字の最高傑作とされる
短刀・太閤左文字と、刀剣乱舞のレア太刀としてもお馴染み江雪左文字。
左文字は博多在住だったので、彼らにとっては里帰りにもあたります。

江雪左文字はゲームでは戦いが嫌いと繰り返しながら、まとう袈裟の裏に
鎧のパーツを貼っていたり、ステータスもやたら高かったりと、
厭戦哲学と戦闘能力が両立する不思議な設定になっています。
美しいながら(特に凝った製法で仕立てられた桃山時代の雪を散らしたような鞘)
見る者の息を詰まらせるような冷ややかな刃…擬人化って凄いと改めて感じました。

会津新藤五はじめ、他も表現する言葉が追いつかない美しいものばかり。
九博も所蔵品から国宝などとっておきを出してきたのですが、私の目を惹いたのは
江戸時代流の差し込み研ぎで刃紋の美しさが蘇ったという無銘光忠。

後で調べたんですが、差し込み研ぎとは、むしろ美術品として飾るために
刃紋を白く目立たせる研ぎの対極のあるものだとのこと。
細かく整った丁子は、徳川ミュージアムで見た燭台切の絵を彷彿とさせました。
この光忠にはハバキついてないんですが、隣の刀には金のハバキがついていて、
古備前の流れを汲んで細身だった燭台切は、無銘でもやはり光忠なんだな…と改めて。

琉球王国関連の展示をささっと見て退場し(沖縄で見る博物館を間違えた
悪夢がよみがえる…県立と市立)3階の特別展へ。榎木孝明さんによる
音声ガイドを泣く泣く見送って突入した先に待っていたのは、展示物にへばりつく
人の壁でした。大関ヶ原展の二の舞です…まあ週末だから仕方ないんですが…。
一定時間展示物の前で立ち止まらせる要素として音声ガイドがあり、
武将直筆の書状(解読しようとすればそれなりの時間を要する)の連発もあります。コンボ攻撃(笑)

出展物はかなりのレベルで揃えてきてるんですよ。徳川ミュージアムからは
三大茶入の一つ(重要美術品)唐物茶入 銘 新田肩衝。大友宗麟のコーナーですが
現所蔵が徳川ミュージアム=水戸徳川家の所有物というわけで、
壁にもどうやって水戸徳川家に流れ着いたかの移動経緯を図示したパネルがありました。
細川晴元→大友宗麟→豊臣秀吉→徳川家康→水戸徳川家。

素晴らしい展示なのに、人の間から盗み見るようにしか見れなくて(急いでるから)
とても残念だったんですけど、気になった展示品いくつかについて感想を。

☆花鳥蒔絵螺鈿机
大阪の南蛮文化館から出展された、ヨーロッパ人を虜にした美麗な螺鈿細工。
仙台伊達家伝来、とキャプションがついているのに納得してしまうあたり、伊達家のイメージって。

☆短刀 銘 吉光
柳川の立花家史料館から出展された国宝。小松コレクションにも短刀はあって、
キャプションは吉光にも比肩する…といった調子になってましたが、
とうらぶでも最大派閥である藤四郎兄弟は、もはや短刀の基準になってしまっているのです。
短刀もあれこれ見てきてますけど、肌の詰みはやはり実の兄弟らしく。
(大関ヶ原展で骨喰は見てますが、あれは焼き直ししているので)

☆太刀 銘 康次(附 糸巻太刀拵)
岐阜の光ミュージアムから出展。聞いたことない…と思ったら
高山にある某宗教団体の施設(ちゃんと国宝が展示できる認可あり)だそうで。
これも拵えが凄く派手。これでもかと島津の十字が…鍔にも4つぐらいあってくどいほど…

☆黒漆塗桃形大水牛脇立兜
牛の角イコール長政。案の定、福岡市博物館所蔵の黒田資料。
すぐ横にあった銀箔押蛤脇立突盃形兜は、朝倉市秋月郷土館所蔵の秋月ゆかりの品。
個人的には見られて嬉しかったです。秋月のものを。

☆梅に鴉図襖
京都国立博物館から出展の重要文化財。会場の展示キャプションには
福岡城に飾られていた…とあり、長谷部も見たことあるんだ、と思って
感慨深かったのですが、今これをタイプするために出品目録を眺めていたところ、
作者記載が「雲谷等顔または雲谷等益筆」とあって、謎多き品だと理解しました。

福岡市美術館がかつてやった企画のページに詳しいんですけど、
e国宝のページにも記された伝来(名島城の襖絵を長政が持って来て
福岡城に飾っていた)が怪しいらしいんです。刀でも怪しい伝承いくらでもありますが、
これまで語り継がれてきたことがひっくり返されそうなのは、楽しみでもあり怖くもあります。

武将が手紙を出す時に使った紙(の素材)の違いを触って体感するなど
楽しそうな体験型展示もあったんですけど、くどいですが人が多すぎて…。
まさか常設より駆け足で出てくる羽目になるとは思いませんでした。
本当に戦国に興味があるなら、平日観覧mustでしょう。

私は官兵衛や長政の肖像画を見ても、脇にある刀ばかりが気になる程度の奴です。
法体になった長政の絵、双刀の威光なんちゃら書かれていて面白かったですが。

帰りに乗った「旅人」仕様の電車が、6両とも内装の開運モチーフや
外に描かれた名所たちが違っていて、たった2駅しか乗らないのが惜しかったです。
というか、太宰府行って3時間弱滞在ってもったいなさすぎますよね。
刀剣乱舞ユーザとしては、筑前サーバアイコンで使われてる観世音寺の鐘も見たかったし!
(これの割引券もついている西鉄の九博切符)

かさの家で食べた焼き立ての梅ヶ枝餅は美味しかったです♪

2015.5.25-26 wrote


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