橋本裕の日記
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向精神薬のひとつであるリタリンの乱用が最近日本でも問題になっている。9月18日には新宿区の診療所「東京クリニック」が、医師のずさんな手続きにより向精神薬「リタリン」を大量に処方していたとして、東京都と新宿区の立ち入り検査を受けている。
リタリンは塩酸メチルフェニデートという成分を有効成分とする中枢神経興奮剤で、これを飲めば一時的に気分がよくなるらしい。しかし、これは麻薬の一種で、これを飲み始めると、やがてこの薬なしには社会生活も行えなくなる。
もともとこの薬は、アメリカで注意欠陥多動性障害(ADHD)と診断された児童への治療薬として用いられていた。ADHDの子どもは落ち着きがなく、ひとつのことに集中することができない。これは前頭葉の障害で感情の抑制がきかなくためだとされた。
そこにADHD治療の決定打として登場したのが、向精神薬のリタリンだった。そして米国のリタリン消費量は1990年から1995年までの6年間で6倍に膨れ上がった。1995年には、米国の6歳から14歳の全ての少年のうち、10〜12%がADHDありと診断され、これらの子どもたちに積極的にリタリンが処方されたのだという。
学校の保健室にはリタリンが常備され、これを飲んだ子どもたちは「リタリンを飲めばハイになれる」ということを学習した。やがて仕事に追われた教師たちも、精神をハイにするためにこれに依存するようになり、この薬の評判はたちまち広がっていった。
やがて大人たちもわれがちにリタリンを求めるようになり、アメリカ一国でのリタリンの消費量は、3億錠をこえた。製薬会社はこれで莫大な利益を上げたが、これによってアメリカ社会は完全な薬物依存社会になってしまった。1990年から1999年の10年間で、世界でのリタリン生産量は700%増加、その90%が米国で消費されていた。
リタリンを飲めば気持がハイになり、たしかに仕事もばりばりできる。しかしそれは最初のうちだけで、やがて依存が深まると、さまざまな副作用があらわれてくる。妄想が現れ、自殺や犯罪に走る人たちも出てくる。
1999年、コロンバイン高校の銃乱射事件の犯人の一人である18歳のエリック・ハリスもセロトニン抑制剤の服用しており、有害な幻覚を体験していたという。その少し前、ジョージア州の高校で銃を発砲し6人のクラスメートに重軽傷を負わせた15歳の少年も、リタリンを服用していた。
なお、1998年にADHDの世界中の権威が集まった米国国立衛生研究所の大会で、「ADHDに関する、有効な、独立したテストはなんら存在せず、ADHDが脳の機能障害であることを示すなんらの証拠もなく、ADHDの原因に対する我々の知識はまだ推測である。」と結論付けられた。ADHD が脳の機能障害であるという学説も現在では科学的根拠がないものとして否定されている。
こうしたことから、アメリカでは現在、ADHDの生徒に対するリタリン投与を禁止する動きが広がっている。「仮にその子どもがADHDだとしても、それは訓練を受けた学校スタッフの余裕ある、きめ細かな教育姿勢で対応していく」という潮流が少しずつ広がってきているのだという。「子どもを落ち着かせたい」という大人の都合で薬物を投与するのは、ある意味で教育や育児の放棄だとみなされてもしかたがない。
アメリカで生じた悲劇が日本でも起こりつつある。東京都内のある心療内科の医師は、現在日本の精神病院で行われていることは、「構造的には麻薬の売人が中毒にさせて、ヤクを売りつけるのと変らないでしょう」(「プレーボーイ」10/15号)と告発する。たしかに営利主義を追求すれば、こうした恐るべき医療破壊が日本の医療機関で常態化しないとも限らない。
日本でもようやくリタリンの規制がはじまろうとしているが、薬害はすでにもっと広く日本社会を蝕みつつある。私たちは「あらゆる薬物が毒である」という基本的な認識をもつ必要がある。大切なのは、私たち一人ひとりが自覚して、薬物にたよらなくてすむ生き方をすることだ。そして薬物に依存せずに暮らすことができる健全な社会を目差したい。
(参考サイト)
http://allabout.co.jp/children/ikujinow/closeup/CU20070920A/index.htm
(今日の一首)
たのしみは日記書き終え青白き 障子の明かりなにげに見るとき
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