橋本裕の日記
DiaryINDEX|past|will
私の近所のM医院の先生はかなりのお年寄りで、人柄はいいのだが、私が血圧を下げる薬が欲しいと言っても、「まあ、血圧をこまめにはかって、記録してみるんだね。そうすればいろいろなことがわかるよ」と、薬を出してくれない。M先生は万事がこの調子で、基本的に薬がきらいなのである。風邪を引いても抗生物質はださない。だから、M医院に行くと、なかなか病気がなおらない。
それでも私はM先生に言われるまま、血圧計を買い、こまめに記録していた。そしてその記録をM先生に見てもらったが、やはり言うことは同じで、「どうです。いろいろとわかったでしょう」と笑うだけで、やはり薬は出してくれなかった。M先生は、「血圧は高いときもあるし低いときもある。それが自然なのだから、むりに薬を使って下げることはない」という。
しかし、本を読むと、140を越えたら高血圧で治療をしなければならないと書いてある。放置すると心臓病や脳溢血など、恐ろしい病気の危険性が高まるらしい。この不安をM先生に訴えるのだが、「それは人によるからね。まあ、せいぜい運動をして、体重をへらすんだね。ストレスもありすぎるといけないよ」と、まるで高血圧など病気のうちに入らないといわんばかりである。そういうわけで、私は血圧を下げる薬を飲んではいなかった。
1年生の担任をなんとか無事終えたあと、私は教頭に血圧のデーターを見せながら、「1年間だけ、担任を休ませてください」と申し出た。教頭は「しかたがないですね。それでは1年間だけ」と、しぶしぶ認めてくれた。
担任を降りると、精神的負担が半減した。腰痛もすっかり影を潜めた。歯も痛くならなくなったし、痔で悩まされることもなくなった。実感としては仕事量が3分の1くらいになった感じだ。これで同じ給料がいただけるのだからありがたい。
しかし、ひとつだけ気がかりなことがあった。それは血圧が、依然として高止まりを続けていることだ。さすがに180を越えることはなかったが、それでも最高血圧が160を越えた。
担任を降りて少し時間にゆとりができたので、さっそく年休を取って、公立の大きな病院を訪れた。その病院の若い先生は、私の血圧記録を読むと、「よく、こんな高血圧を放置しておきましたね」と顔をしかめ、薬を処方してくれた。
私は毎朝食後に2錠の血圧降下剤を飲むようになった。これを飲むと胃が痛くなった。そこでムコスタという消化剤も出してもらった。これで最高血圧が140を切るようになり、体が楽になった。もっと早く薬を飲めばよかったと、M先生を恨んだものだ。
ただ、病院はM医院とちがって、夜は診察が受けられない。年休を取るのが面倒である。そこで病院でもらった薬のリストを持って、夕食後M医院を訪れた。「この薬を出してください」と言うと、M先生は「ああ、そうですか」と鷹揚に応じてくれた。これは少し拍子抜けだった。M先生は「馬鹿なやつだな。まあ、面倒だから、薬を出しておくか」と思ったのかも知れない。
もっとも私はやがて、高血圧は「生活習慣病」だという考えに傾いた。M先生の言うように、運動と食事療法で体重を減らし、ストレスを適当なレベルに下げれば血圧も自然と適正レベルに落ち着くのではないか。そうすれば血圧降下剤を飲み続ける必要はなくなる。しかし、生活習慣を改めるということは、思ったよりむつかしかった。
(今日の一首)
花街を歩いてみたし浅野川 間借りしていた寺の界隈
|