橋本裕の日記
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2006年10月02日(月) 英会学習における日本語の壁

 私をふくめ多くの日本人は英会話が苦手だ。辞書があれば英文はどうにか読めるが、英会話となると歯がたたないという人が多いのではないだろうか。

 最近、私は自分が英語ができないのは、「日本語の壁」のせいではないかと考えるようになった。私たち日本人は、英語の授業で英文和訳や和文英訳を執拗に学習した。だから、英語を「日本語」を仲立ちにして解釈する思考回路ができあがっている。とくに大学入試で合格するためにこの訓練を真面目にした学生ほど、この習性が身に着いている。

 ところがこうした日本語を迂回して英語を理解していては、リスニングや英会話のスピードについていけない。アメリカ映画など見ていても、登場人物の会話がわからない主な原因は、会話のスピードが私たちの思考の速度に比べて早いからだ。だから、ゆっくり字幕を読めば理解できる。受験勉強で習得した英文和訳のテクニックが役に立つからだ。

 それではなぜ、日本語に迂回していると、こうもスピードが落ちてしまうのか。それは日本語と英語がまったく性格の異なった言語だからだろう。それはただ語順がちがうということではない。もっと根深いものがある。

 たとえば、「強い風で木が倒れた」という日本語を英語で表現する場合を考えてみる。まず、「強い風で木が倒れた」という文章Aを、英語式に発想した「強い風が木を倒した」という擬似日本語Bに変換しなければならない。このA→Bという発想の転換がかなりむつかしい。

 これができれば、「強い風」がstrong wind、「木」がtree、「倒れた」はbroke downだというのは中学生でもわかるだろう。

 そして最後に、英語の構文は「SVO」が基本である、そこで、主語を立て、他動詞を置き、最後に目的語を置く。そうすれば、「Strong wind broke down the tree.」という英文にたどり着く。

 ここで大切なのは、日本語と英語では発想が大きく違っているということだ。「強い風で木が倒れた」という日本語は、私たち日本人には自然に感じられるが、英米人にはなじまないだろう。

 彼らにはむしろ「強い風が木を倒した」という表現がしっくりする。木は自然に倒れたのではなく、風が押し倒したわけだ。このように動作の主体をしっかりと打ち出すこと、つまり「SVO」の構文が英語の基本にある。

 もう一つ例をあげよう。「どうして遅れたの?」というありふれた日本語をどう英語にしたらよいだろうか。まず浮かぶのは、「あなた」を主語にして、「Why were you late?」だろう。

 しかし、ネイティブはたぶんもう少し違った発想をする。それは、この質問のポイントが「あなた」を非難することにあるわけではなく、「あなたが遅れてきた原因」を客観的に知ることにあるからだ。

 こうした発想に立てば、その原因Xを直接に主語にして、より明快な「what kept you?」という英文ができあがる。しかし、英米人に自然な表現が、日本人にはなかなか浮かばない。むしろ違和感を覚えるのは根本にある発想が違うからだ。

 英語を勉強するということは、こうした「日本語の壁」を乗り越えることではないか。日本語の壁を乗り越え、直接英語の発想で「SVO」の構文を組み立てることができなければ、本当に英語をマスターしたことにならないのだろう。

 しかし、私たちが異国語を学ぶのは、ただ異国の文化の発想を理解し、異国語に熟達するためばかりではない。それは私たちが無意識に使っている日本語や、日本語によって支えられている日本文化を、あらためて意識的に反省し問い直すことにもなる。異国語を学ぶことは、自国語をより深く学ぶこと、自国の文化をより深く体験することでもある。


橋本裕 |MAILHomePage

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