橋本裕の日記
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2006年02月11日(土) 景気の回復は本物か

 ライブドア・ショックで大きく下がった株価も、いつのまにか以前の水準にもどった。日本経済の見通しが明るいからだという。たしかに厚生労働省の発表では、2005年12月の有効求人倍率も、全国平均で1.0倍になった。

 1倍台を回復したのは1992年9月以来、実に13年3カ月ぶりだ。総務省の労働力調査でも、05年12月の完全失業率は4.44%と前月に比べて0.22ポイント低下している。1月31日の日経新聞夕刊は、「景気回復による収益改善に加え、団塊世代の大量退職も控えて、雇用情勢の改善が一段とはっきりしてきた」と書き、次のように続けている。

<企業はこの10年来、採用を絞り込んできたため、景気の持続的な回復傾向を踏まえて人材確保を急いでいる。また、団塊世代の大量退職が始まる「2007年問題」を控えて、工場の生産現場などでは円滑な技能継承が課題になっている。厚労省は企業の求人意欲は衰えていないとし、「有効求人倍率の伸びは当面続く」とみている>

 私の勤務する夜間定時制高校でも、進路担当のM先生が「今年度の就職活動はこれで終了です」とはやばやと店じまいを宣言した。企業からはそれでも求人の問い合わせが続いている。M先生によれば、企業は本当に人を欲しがっていて、景気回復を肌で感じるという。

 愛知県はトヨタをはじめ輸出関連企業が多く、外需に支えられ、たしかに景気がいい。有効求人倍率も全国トップで1.61倍もある。大幅な買い手市場である。しかし地域別にみると、沖縄県は0.41倍しかなくて、愛知県の1/4である。北海道(0.63倍)、九州(0.69倍)と、地方では依然として厳しい状況が続いていて、全国的に格差が拡大している。

 完全失業率も北海道、東北、近畿、九州で5%を超えている。全国平均で下がったと言っても、4・4%は13年前の2倍もある。とくに増加が著しいのは、15歳から24歳の若年層の男性の完全失業率で、これが9・9%もある。

 また、有効求人倍率を就業形態別に見ると、パートが1.41倍と1倍を大きく超えているのに対し、正社員は0.65倍しかない。ここに1.0という平均値では見えない現実が横たわっている。つまり、求人倍率の伸びは、おもにパート社員の増加で補われているわけだ。そして正規社員とパートの賃金格差が広がっている。
 
<求人が改善しているといっても、中身は非正規の求人が増えています。有効求人倍率が全国で一番高い愛知をみても、トヨタ自動車の生産ラインでは三割から四割が期間工。五割を超すラインもあります。財界・大企業が進め、小泉内閣が労働法制の改悪で後押しする使い捨て雇用、リストラによるコストダウンでは、貧困と所得格差が広がるばかりです。正社員を増やすこと、同一労働同一賃金の原則に立った均等待遇をはじめ、大企業に社会的責任を果たさせる政策の転換が必要です>

 これは2月1日の赤旗新聞に掲載された労働者教育協会常任理事の佐々木昭三さんの話である。自分の周りだけや、日経新聞ばかり読んでいたのではわからない経済の現実がここにある。

 試験の得点が平均点の半分に満たない生徒を、私たち教師は「成績不振者」と呼ぶ。平均点が60点なら、30点未満の生徒がそうだ。こうした生徒を対象に補習授業を行い、追考査を実施する。こうした働きかけにより、不振者率を下げ、生徒の学力をなんとか底上げしようと努力するわけだ。

 経済学者は、所得が全国平均の半分に満たない人を「貧困者」とよぶ。そしてこの貧困者の割合を「貧困率」と呼ぶ。日本のように所得が高い国では、必ずしもこのネーミングはマッチしないが、少なくともこの数字で収入格差のおおよそを掴むことができる。

 日本の貧困率は90年代前半には一桁台だった。ところが2000年にはこれが15%を越えている。これはアメリカ、アイスランドに続いて、先進国では3番目に大きな数字である。小泉首相は「格差は言われているほどではない」という。為政者がこうした認識を持っている限り、貧困率の改善は期待できそうにない。


橋本裕 |MAILHomePage

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