橋本裕の日記
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上から眺めると○、二つの側面から眺めると△と□に見える立体など、この世に存在するのだろうか。役人はあきらめかけたが、「コロンブスの卵」という数学者の口にした呪文を思い出して、もう一度、紙に円柱を描いて考えた。どうやら、円柱に答えの手がかりがありそうだと思った。
円柱は上から眺めると○に見える。そして側面から眺めると□に見える。さらに、△にも見えるためには、何が必要か。役人はその円柱をいろいろに切ってみた。そして、とうとう、正解らしいものをさぐりあてた。
「円柱を横から△に見えるように切ればいいだけなんですね。そんな風に切ると、切り口は曲線になりますが、正面の輪郭は確かに□に保たれます」
「そうだよ。円柱の上底面における任意の直径をDとしよう。Dを含み下底面の円周に接する平面は二つあるね。この二つの平面で、この円柱を斜めに切断する。これで求める立体が得られるわけだ」
そう言いながら、数学者は机の中から、あらかじめ紙で作っておいた立体をとりだした。たしかにその立体は見る角度によって○と△と□に見えた。役人は「群盲象を撫でる」という言葉を思い出した。
「この図形は何だか教訓的ですね。平面で見ていると解決できない問題も、立体的に考えると解決できるんですね。それはそうと、私も実はパズルを用意しましたが、釈迦に念仏のようで気が引けますね」
役人はポケットの中から、おずおずと6本のマッチ棒を取り出した。これで4個の正三角形を作れという問題だった。数学者は「これも立体思考で解決するね」といいながら、マッチ棒を三角錐の形に組み上げた。そして、役人の方に悪戯っぽく笑って、
「それでは、あと3本マッチ棒をくわえよう。9本のマッチ棒で正方形を3個作ってごらん。立体思考ができるかな」
数学者はソファに背をもたれながら、恰幅のよい50年輩の役人が前屈みになって、無心にマッチ棒を組み立てているのを、たのしそうに眺めた。
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