橋本裕の日記
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2004年08月26日(木) ジャーナリズムの戦争責任

 8月14日のNHKスペシャルで、「遺された声〜録音盤が語る太平洋戦争〜」が放送された。中国吉林省で満州の国策会社・満州電電が戦時中に放送したラジオ番組の録音盤2200枚が発見され、そこには戦況報道にまじって特攻隊員の遺言や開拓農民の声などが数多く録音されていた。

 番組ではその声を紹介していたが、どの声も元気で明るく模範的なものばかりだ。しかし、番組はそうした声を残した人々の足取りや背景をたどり、戦争の実態にせまろうとしていた。

 録音盤に「お国のために」と勇敢な遺言を残していた特攻隊の青年は、その前夜、ベッドで泣いているところとを目撃されていた。「開拓地にきて飯が食えるようになった、良かった」と威勢よく言っていた開拓民の農夫は、実は荒れ地で作物が実らず、妻を病気で亡くし、一家心中を思いつめていたことを、生き残った息子が、レコードの声を聞きながら話していた。

 レコード盤の声が伝える内容と、その現実にあったことの何という大きなギャップか。その結果、戦争の悲惨は伝えられることはなく、ただ美化された偽りの現実ばかりがラジオで宣伝され、そのプロパガンダによって、多くの人々がさらに悲惨な戦争へと動員されて行ったわけだ。

 国会図書館でかっての新聞を読んときも同じ感想を持った。戦時中は、朝日、毎日、読売などの大新聞もただ、戦争翼賛、軍隊賛美一色で、戦争遂行のための強力な宣伝機関と化していた。ラジオや新聞はいずれもこうした役割を担っていたわけで、その責任は大きいといわねばならない。

 朝日新聞の「天声人語」は、戦時中は「神風賦」(しんぷうふ)と題されていた。それがどんな内容だったか、手元にある「朝日新聞の戦争責任」(安田将三・石橋孝太郎共著、大田出版)から引いてみよう。

<米英兵といえども一応は勇戦奮闘する。しかし、計算上どうしても勝味なしとわかれば、潔く手をあげて捕虜となる。 彼らは決して捕虜を不名誉とせず、むしろ定められた義務を果たした勇士として、これを英雄視する。

 忠誠とか犠牲とか、崇高なる精神を表現する言葉はむろん米英にもあるが、それが行為となると彼らには踏み越え難き一定の限度のあることが知られる。 もっとも稀には、その限度を越えるものもあるが、やはり冒険心か、あるいは単なる英雄主義に出るものと見るべきだろう。

 わがアッツ島における玉砕勇士の場合は、これとは全く趣を異にし、その忠誠勇武、誠に言語に絶するものがある。 これこそ名を求むる英雄主義ではない。己を全く捨て、ひたすら中心に帰一し奉る万古不易の日本精神の発露に外ならない。

 平素はいわゆる英雄豪傑型の人とも思われず、むしろ平々凡々たる人間であっても、苟も日本人たる以上、例外なく「玉砕」の精神がその血管内に脈打っている事実がここに立証されたと言える>(昭和18年8月29日朝刊)

 「全滅」という言葉のかわりに「玉砕」という言葉を使ったのは朝日新聞がはじめてだという。大新聞はこぞって華々しい戦争記事を書き、発行部数を大幅に伸ばした。それまで朝刊だけだった各紙が、このころから夕刊を出すようになり、それをまた国民は待ちかまえていて読んだわけだ。

「戦争」によって一番儲けたのは三井、三菱などの財閥の経営する軍需産業だろうが、ジャーナリズムも大いに余沢で潤ったらしい。ある新聞記者の回想記によれば、このころ新聞記者の得意話の第一は、「偉い軍人さん」と同席して酒を飲んだことだという。もうひとつ、終戦の日(8月15日)の「神風賦」を引用しておく。

<生をこの神州に享けたものに取って、これほど大いなる歴史的事実はない。事ここにいたって、多くいうべきではない。・・・

 戦いは事志とは違った。何故事ここに至ったか、いやしくも責は何人が負うべきか、などというなかれ。顧みて他をいうのをやめよ。各人、深く静かに思いをひそめて、自ら反省すべきである。・・・

 国民の当面の心構えは、如何なる事態に直面するとも、毫末も取り乱さぬ意志の強さを持つことである。・・・

 今日の日本国民が持つべき唯一の道義は、あくまで国の組織力を信じることである。国の組織力は協心戮力の大和心にある。一億同胞、骨肉相翼ける心にこそ、国の結合力が存する。・・・>

 自らの責任を棚に上げて、「各人、深く静かに」などというのは、いかにも虫がよすぎはしないか。私は「神風賦」の後身である「天声人語」を愛読している。その朝日新聞が戦時中ジャーナリズム精神を放擲して、国策遂行の奴隷もしくはリーダーとなり、こうした恥ずべき姿勢で敗戦を迎えたのは残念でならない。ふたたび、日本の新聞がこうした醜態を演じることがないことを祈りたい。

(今日から1泊2日で小淵沢に行って来ます。明日の日記の更新は夜になると思います)


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