橋本裕の日記
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18.痩せた体
修一は島田の髭を剃り、それから浴衣を脱がせて、首筋や脇の下を水で濡らしたタオルで拭いた。ベッドで寝たきりの島田の手足は痩せていた。シャツを脱がせると、肋骨が浮き出ていた。そこを丁寧に拭いた。
島田はいつか目を閉じていた。眠っているようにも見える。修一は足首から太ももを拭いた。それから、パンツをとって、下腹部を拭いた。下半身の厄介な部分はこれまで看護婦にまかせていたが、今日はついでに拭いてやろうと思った。
修一は島田の小さくしぼんで黒ずんだ一物を手ぬぐいで拭きながら、葉子が同じことをしているところを想像した。葉子が見ている前で、それが膨れ上がったりしないのだろうかと、修一は葉子の横顔を思い浮かべた。
それから、良子のことを思い出した。良子の女の部分に、島田のそれが入っていったこともあるのだろう。修一はそんなあらぬ想像をしているうちに、島田の一物をとおして、島田がこれまでに関係をもった多くの女の部分にふれているような気がしてきた。そうするとその黒ずんだ小さなものが、なにやらいわくありげに眺められた。
修一は中学生の頃、福井の田舎で寝たきりの母の世話をしたことがある。大雪が降って、母屋がつぶれそうだということで、一家で屋根に上がった。しばらくして、母が足を滑らせて落ちた。
落ちたところが悪かった。首の骨が折れて、全身不随に陥った。医者は命が助かったのがもうけものだと言ったが、母は死んだ方がよかったと泣いた。家に厄介者が増えて、家計が苦しくなった。父がよく酒を飲むようになった。家の中がどんどん暗く荒んで行った。
全身不随の母にかわって、中学生の修一と小学生の弟が家事をした。母の世話をするのは父の役目だったが、父が手を抜くようになって、いつか修一の仕事になった。裸にして体を拭いたり、下の世話もした。
ある日、下の世話をしようと思って、浴衣を剥ぐと、母の太ももが血で汚れていた。中学生の修一は知識として知っていたが、実際に女の出血を見るのははじめてだった。そのとき修一は母親に女を感じた。いつもの母親ではなく、三十代の女のなまぐさい部分が急に鼻についてきた。
それから修一はなるべく母に近づかなかった。母の世話は父や弟に任せた。そのかわり、食事の支度をし、朝刊と夕刊を配ることで、修一は家計を助けた。中学を卒業して、修一は田舎の家を出て、福井の親戚に下宿し、そこから定時制高校に通った。田舎には休みのたびに帰ったが、あいかわらず母は寝たきりで、修一の顔を見ると子供のように泣いて、「はやく死にたい」とばかり口にした。
しかし、あれから二十年以上たって、母はいまも父と弟一家に支えられて生きている。父も弟も母を厄介者扱いすることはなかった。母もいつか「死にたい」とは言わなくなり、修一が帰省して顔を見せると、うれしそうに微笑んだ。修一が久しぶりに体を拭いてやると、「ありがとう」と涙を流して喜ぶようになった。
修一もいつからか、母になまぐささを感じることはなかった。母の女の部分を眺めながら、そこから自分が生まれてきたのかと思うと、何か敬虔な思いがした。 「母さんのここから僕や孝二が生まれてきたんだね。拝ませていただきます」 いつか、修一は正座してそこに手を合わせたことがあった。母のその部分はきれになピンクをしていて、いつまでも若々しく美しかった。
最近はしばらく福井の田舎に帰っていない。去年の盆にも帰り損ねたから、もう二年以上になる。修一は島田の体を拭いたあと浴衣を着せながら、いつか少し涙ぐんでいた。母のことを思いだしたせいで、少し感傷的な気分になっていた。
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