橋本裕の日記
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2003年09月08日(月) こうもりの空

11.あかね雲

 万引きの取り調べが終わって、デパートを出た私たちは、電車通りをとぼとぼと歩いて家の方に向かった。家に近づくにつれて足取りはさらに重くなった。私たちが足を向けたのは近くのビルの建設現場だった。

 休日で現場は閑散としている。資材置き場になっている空き地にも人気がない。私は茂夫と並んでその上に腰を下ろし、ため息をついた。
「ごめん」
 茂夫がその言葉を繰り返すのは何度目かだった。

 私が意気消沈しているのを見て、すまないと思ったのだろう。実際、私は心の片隅で茂夫を非難していた。茂夫のせいで私は万引きの共犯者にされてしまった。そればかりではない。取調官は私が茂夫を唆してやらせたような印象を持ったようだ。

 茂夫が父子家庭に育ち、小遣いも滅多にもらえないような家庭環境にあつたことを私は初めて知ったが、係官も調書を取りながら彼には同情的だった。その分、私には風当たりが強かった。実行犯の茂夫よりも、彼を指図した私の方が悪いと考えているようだった。
(茂夫となんかつき合わなければよかった)

 私は後悔の念に捕らわれていた。しかし考えて見れば、やはり私はれっきとした共犯者だった。茂夫が万引きしたチョコレートを貰って食べている。茂夫も私がデパートに誘わなければこんなことにならなかった。
(このまま家出をしょうかな……)

 二年前、若狭小浜に住んでいた頃、私は家出に失敗した経験がある。東京に出て、靴磨きの少年になるつもりだったが、考えてみると杜撰で幼い計画だった。六年生なった今、さすがにそんな夢物語を実行する気にはなれない。
 そうしているうちに、日が暮れかけてきた。西の空が次第に茜色に染まって行く。ねぐらに急ぐカラスの姿が目に付くようになった。

「カラスが鳴くから、帰ろ……」
 私は立ち上がり、資材の上から飛び降りた。続いて茂夫が、カラスのように両手で空を飛ぶような大げさな真似をして飛び降りた。


橋本裕 |MAILHomePage

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