橋本裕の日記
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9.万引き
六月も下旬になり、蒸し暑い日が続いた。そうした梅雨の晴れ間の日曜日の午後、私は茂夫を誘って、ダルマ屋という駅前通りにあるデパートに行った。自動車の部品に使うネジや歯車を買おうと思ったのだ。
しかしデパートの模型売場にも、欲しい物は見あたらなかった。私ががっかりしていると、 「屋上の遊園地でジュースを飲もう」 茂夫が誘った。デパートへ子供たちだけで来るのは初めてだ。私はどきどきしながら、茂夫の後について行った。途中、お菓子の特設売場を通った。チョコレートやクッキーが山積みしてある。日曜日で家族連れの客で混雑していた。そこを抜けて、屋上の遊園地のジュース飲場に来た。
私がジュースを買って持って行くと、茂夫がポケットからチョコレートを一枚出してきて、半分に割った一つをくれた。私は驚いて、 「いつのまに買ったの」 茂夫が肩をすぼめて笑った。それで私はそのチョコレートを茂夫が違法に手に入れたことを知った。 (あんなにたくさんあるんだ。一つくらいかまわないさ) 茂夫の細い目がそう語っているようだった。
これが近所の駄菓子屋さんだったら私も躊躇しただろう。実際に万引きが見つかって、こっぴどく叱られた子供もいたが、結構うまくやる子供が多いので、おばさんが困っていた。 私はチョコレートを茂夫から受け取ると、口に運んた。 「おいしいかい」 茂夫に言われて、うなずいた。
それから私たちは屋上の遊園地を後にして、再びお菓子の特設会場を通った。そこを抜けて階段の踊り場まで来たとき、茂夫が再びチョコレートを出した。私はあわてて受け取った。それをポケットに入れると同時に、私たちは背後から年輩の男によって襟首を掴まれた。
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