橋本裕の日記
DiaryINDEXpastwill


2003年08月25日(月) こうもりの空

7. ブリキの車
 私はその頃、江戸川乱歩の推理小説やマークトゥエンの冒険小説が好きだった。H・G・ウエルズなどののSF小説も面白かった。学校の図書館や近所の貸本屋で借りてきて夢中になって読んだ。夏休みに手作りの自動車で若狭に行こうと考えたのも、こうした小説の影響かもしれない。福井の小学校に転校して来てしばらくは孤独だったが、今はそれも嘘のようだ。

 もっとも実際に製作を始めてみると大変だった。まず、資金がない。鉄屑拾いをしたりして頑張ってみたが、収入は思ったほどではなかった。それでも、あり合わせの材料で車体のフレームを作った。各自が自分の家から角材やベニヤ板などを持ち寄り、製作は私の家の裏庭でした。

 車輪は使わなくなった乳母車から拝借した。車輪に鉄の棒で車軸とハンドルをつけて走るようにした。座席も木で作り、近所の金物屋で買ったブリキを張りつけた。一応は四人乗りだ。私はその自動車に葉子も一緒に乗せてやりたいと思った。こうして短期間のうちにそれらしい形ができたが、じつはまだ肝心の駆動部分には手が着いていない。

 エンジンを手に入れなければならないのだが、乏しい資金のなかでやりくりするのだから大変だった。行きつけの模型専門店に行ってみたが、そこに並んでいるのはいずれも模型飛行機用の馬力の小さなものばかりで、しかもそんなちっぽけなエンジンでさえ高額で手が届かなかった。

 それでスクーターかバイクの中古のエンジンがないか、屑屋に行って訊くと、自動車修理工場か解体屋を当たってごらんと言われた。学校の帰りに寄道をしてみたが、そこにも適当なものは見つからなかった。

 そんな具合で、私を除く三人の自動車製作にかける熱意も下火になった。
(いつか空を飛ぶ自動車を作りたい)
 私だけが出来損ないのブリキの運転席に腰を下ろして、あい変わらず他愛もない夢を追っていた。


橋本裕 |MAILHomePage

My追加