J (ジェイ)  (恋愛物語)

     Jean-Jacques Azur   
   2002年12月08日(日)    私はもっとレイに近づきました。

J (1.新入社員)

3.雨、そして (8)


「何してんだろう?、ひとりでレイちゃんは、、、
 トモミさん、先にみんなのところへ行っておいて、
 オレ、ちょっとレイちゃんを呼んでくるから、」
「うん。先に行ってる、」
友美さんは微笑みを残し私から離れていきました。


私はレイの方へ歩いて近づいてゆきました。
レイは近づく私に気がつかない様子でした。
海の遠くのほうをじっと見つめていました。


「何を見ているんだい?、」
私は笑顔を作ってレイに声をかけました。
このひと言は波の音に消されレイには聞こえなかったようです。
「、、、」

私はレイにもっと近づきました。

「レイちゃん、どうしたの?、」
「あ、工藤さん、、いつの間に、」
「ひとりみんなから離れて、、、おセンチかい?、
 それともホームシック?、、なわけないか、」
私は愛嬌を崩して言いました。

レイはニコッとして、
「友美さんは?、」と聞きました。
「うん、先にみんなのところへ行ったよ、
 オレ、レイちゃんの姿見かけたから呼びに来た、」
「すみません、ひとりで勝手なことしていて、」
「いや、いいんだよ、」
そう言ってから、私はレイから目を離し海を見やりました。


波の音がふたりの声を遮ります。
私はもっとレイに近づきました。
寄り添うぐらいに。


「何見ていたの?、ひとりで、」

「あそこ」、レイは指を指しました。

「どこ?、」

「ほらぁ、あそこです、海と空の境のところ、水平線の向こう、」


「水平線の向こうに何が見えるんだい?、」

「雲と海の切れるところに青い空が見えるの、
 ね、工藤さん、見えますでしょ?、」


「ホントだ、もうすぐ今日が終わると言うのにね、」

「そうなの、明日がそこまで来ている、
 そう思っていたら、つい、ひとりで見入ってしまったんです、」



私は私と同じ感性を持っているレイを知り少し驚きました。

(何と言うことだろう、、、!、この子は私と同じものを見ていたのだ、)


私はレイの顔を見ました。
レイの目は遠く水平線の向こうを見ていました。
そして私の視線に気がつき私の目を見ました。


私は一瞬レイの瞳の奥を見て胸が高鳴りました。


  深い海のような瞳、、、

  この深海の奥より放つ光はいったいなんであろう、、、


私はついレイの瞳の奥に引き込まれそうになり、
慌てて言いました。
「レイちゃん、行こう、みんな待っているよ、」

レイは微笑んで、
「はい、工藤さん、了解しました、
 早く行かないと、友美さんがヤキモチ妬きますからね〜!」

レイはケロっとそんなことを言い、走って行ってしまいました。


レイの足取りは軽く楽しそうに見えました。
私には何が楽しいのかは分りませんでしたが。



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