日々の泡

2002年07月21日(日) 夏の死の匂い

とてつもなく長く書けないでいるうちに、夏休みになってしまいました。

‐‐
学校の傍を通ったら、木陰で薄緑の水玉が弾むのを目の端にとらえた。
先月たくさん落ちていた梅の実よりふた周りも小さい、銀杏の実。

まだほとんど臭いのしないその涼しげな水玉模様を楽しんでいたのもつかの間、
次々と落ちては黄色くなり潰れていく実の放つ悪臭で
あたりが満たされてしまうのを合図にしたかのように
校門は閉ざされ夏休みが来た。

‐‐
そういえば、この一ヶ月は動物の屍骸にやたらとぶつかったなぁ。

俄か雨に叩かれながら自転車で急ぎ走り抜けた路地の入り口、
車にはねられたらしい子猫のあどけない残骸。

子供の手を引いて通ったガード下、
おぼつかない足どりで車道にまろび出て目の前で轢かれた若い鳩。

ツイテナイ。

‐‐
休み前に子供が捕まえてきたのは片脚のとれた小さなバッタ。
籠に入れて胡瓜を与えていたら、いつのまにか不自由な体で脱皮していた。
それで力尽きたのか、まもなく死んだ。

昆虫の脱け殻は、繊細な触角から目玉から足先の爪やら棘やら
極小の末端に至るまですっぽりと見事に脱げている。
呼吸器官である気管の、その体に開いた微細な穴の奥の奥まで
古い皮がきっちり繋がったまま脱げるのだという。
それを脱ぐときのむず痒いようなキツさ、苦しさもどかしさを想像すると
気が遠くなるようで。
「変態」という名のそれを淡々とやってのける昆虫という奴らは
死んで生まれ変わるという営みを短い命の間に繰り返しているのかと思う。

‐‐
私にとっての夏の匂いはまず、甲虫類の脂ぎった前翅から匂ってくるような
腐臭にも似た生々しい匂いだ。
命と死を同時に感じさせる匂い。
嫌だなと鼻を押さえつつ、生きてることをじんわり感じながら歩く
そんな暑い夏が今年もはじまった。


 < 往  一覧  来 >


蟻塔

My追加