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2004年06月25日(金) ずっと書きたくて言葉にならなかった。

先週の日曜、アフリカのジンバブウェにフィールドワークに行っていた友達が帰ってきた。新宿西口で飲む。

「バナナさんはアフリカについて誤解しすぎ」と怒られながら、色々と貴重な話を聞く。
彼はジンバブウェの都市に広がりつつある寡婦(未亡人)のコミュニティについて研究しているという。(なんてマニアック!と思ってしまったのだけれど。)



「ジンバブウェでは伝統的に、女性は(男性の)財産、所有物という考え方があったんですね。だから夫が死ぬと、寡婦になった妻は夫の兄弟に相続される制度があった」「えーひどい。そんなの嫌だよねえ。だんなは好きでもそのお兄ちゃん好きになれないよ」。「でもね」私の言葉を遮り、彼は続けた。

女性が何も(土地や家などを)所有できないコミュニティにおいては、寡婦相続の制度はひとつのセイフティネットでもあった。それは社会を維持するために必要なシステムだったという。

「最近はそういう制度がないから、夫を失った妻は途方に暮れてしまうわけです。僕は、その寡婦たちが、寡婦同士でより集まってコミュニティを作っているというのを聞いて、面白いな、と思ってね。それでアフリカに着いてから、急に研究テーマを変えちゃったんです。」

「彼女たちは基本的にキリスト教徒なので、寄り集まってお祈りをしたり、皆でピーナッツバターを作って売ったりしてる。コミュニティは、(経済的な、というよりは)精神的なよりどころという役割が大きい」。

私はなるほどねえ、とうなってばかりいた。世界には私の知らないことがなんて沢山あるんだろう、と思う。色々質問をした。

彼は読んでいる学術書の量もやはり私などとは比較にならず、ジンバブウェの政治がどうなっている、世界の南北問題はどうなっている、そして寡婦はどうやって生活している、という広い視野と狭い視野、両方の眼でものごとを見つめる眼を持っている。

しかし結局のところ、一番感心させられたのは、やはり実際に見て、会って、話して、一緒に働いた人にしか分からない寡婦たちの生活についてであった。フィールドワークをしていた10ヶ月の間に、仲のよかった寡婦が2人死んだという。

「数日前に話したばかりの人で、病気も回復に向かっていると思ってたからだいぶ落ち込んだ。でも、土葬で死に顔を見ても涙が出ないんですよ。寡婦コミュニティの人も誰も泣かない。慣れざるを得ないんだろうね」。

「辛いんだろうね」哀れんだ顔をした私に、彼は冷静に答える。「僕はその人たちと一緒のうちに住みこみで研究させてもらって、ひとりひとりにインタビューしたんですよ。何が一番しんどいですか?って。聞けば、やはりお金がないことだと言っていた。でも、けっこうなんだかんだでやってるよ。口では『まったく苦しくてねえ、困るわ』とか井戸端会議してるけど、それは日本と一緒。辛い辛いってふさぎこんだままやってかないわけにいかないから、古着を売ったりかごを作って売ったり、まあどうにかご飯を手に入れてみんな楽しく生活してますよ。そんなもの。あたりまえだけど一緒ですよ、僕らと」。



彼が撮ってきた何千枚という写真の一部を見せてもらう。都築響一が「写真の素晴らしさは撮る側の被写体への好奇心で決まる」というようなことを書いていたのを思い出した。彼と寡婦とのいい関係が、画面からにじみ出てくる。本当にみんな、いい笑顔をする。「写真を撮ってもらうから」とわざわざ着替えて化粧をしてから出てきた人もいたという。私と一緒だよ、と笑ってしまった。



この文章を綴りながら、それで私は何が書きたいのだという自問自答を何度も繰り返し、結局友人に勧められた新書、『グレート・ジンバブウェ』を面白く読むしかない自分を少し情けなく思ったりもする。ただ、「物質的に豊かになった我々は、発展途上国の人達のような生きる喜びを忘れてはいないだろうか」といったようなまとめにはしたくないことは確かであったはずなのに、寡婦が歌う賛美歌(動画で見せてもらった)は最近聴いた音楽の中で一番泣きそうになったし、ピーナッツバターを作った後の黒くて脂ぎった彼女らの掌を写した写真は、勉強のために買ったおしゃれ写真集の何倍も私の心に響いてきたのである。



なぜ、カメラを向けられて微笑んだ彼女たちはあれほどに、生気に満ちているのだろう。人の生活とは、政治や思想や書物をはるかに飛び越えて、なんと不思議で、素敵なものなのだろう。



クーラーのきいた部屋でこんなことを書いて、書くことで満足している自分は何だろう。書くことで満足している自分は何だろう、と書くことで満足している自分は、何だろう。



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