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2003年11月03日(月) 「ほんの少しあなたと笑っただけで」

昨日、友人と3人で黒沢清監督『ドッペルゲンガー』(訳の分からない傑作!)を見て笑った後にラーメン屋で暗い話をし(生きるか死ぬか、労働とは、みてえなことよ)、今日は一人で『月曜日に乾杯!』鑑賞。日比谷シャンテにて。文化の日だからか、映画館には人がとても多く、しかもそのほとんどが中高年の品のいい老夫婦たちである。いつもミニシアターにいるような、映画が好きそうなもっさい若者たちがあまり目につかなかった。

日比谷シャンテシネではとなりでアカデミー賞の『ポロック』を上映していて、こちらも非常に捨てがたかったが今日は月曜日なのでやはり狙っていた作品に落ち着く。席はほぼ満席だった。

『月曜日に乾杯!』は、絶対に見たほうがいい映画です。少しも泣くところなどないのだけれど、途中でくすっと笑いながら涙が垂れてきた。

「フランスの田舎って素敵」「パリで暮らしたい!」「肩ひじはらないくらしがしたい。」「しぜんにしぜんに」くそったれな言葉が書店に、街に溢れる。私はそれを消費して、大宮のスタバでスコーン食いながらちょっとどっか外国の(どこだっていいや、フランスだってロシアだって、ヴェニスだって、あ、ヴェニスは市の名前だっけ?)ティータイムについて考えて、もっとくそったれな今をやり過ごす。

ああ、この映画は最近はやりの、そして私が大好きな、スローライフ信仰とは全く逆のやり方でいまここにある暮らしの素晴らしさを教えてくれるのだ。

工場に通う単調な日々にうんざりしたヴァンサンは、フランスの郊外から、ある日突然旅に出る。電車でイタリアのヴェニスへ。彼を待っていたのは見たこともない景色?水の都の神々しい空?いや、彼を待っていたのは自分とそっくり同じ、人々の「日常」だった。そこに、逃げるべき彼岸はない。

この映画で私が泣いたのは、すべての映像が、まったく特別ではない幸せにあふれていたからである。それはヴェニスでも、フランスでも同じことだった。

乾杯の一瞬に、いってらっしゃいのキスに、「楽しかった?」「旅行だからね」というやりとりに、お墓にお花を届けるおばあちゃんに、ボートを漕ぐ男の汚れたボーダーTシャツに、使い古しのコーヒーメーカーに、眠る前に読み聞かせる絵本と子どもの笑い声に、修道女の足を覗き見るばかなおっさんたちに、となりの夫婦のエキセントリックな夫婦喧嘩に、ちゃぷちゃぷと流れる水の音に。

どうして気がつかないのだろう?どうして知らないのだろう?こんなに美しい毎日が、そこにあるよ。私は映画になった自分の日常を想像して、少しだけ嬉しくなった。大橋歩じゃない私の、丁寧じゃないせわしない暮らしは、結構泣けたりしてね、なんて。

そして明日も憂鬱な「月曜日の朝」がやってくる。


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