(丸山先生のメルマガより引用)
アラスカに暮らしアラスカを撮り続けた写真家であり、また稀代の エッセイストでもあった星野道夫さんの『旅をする木』。その中の 「ワスレナグサ」と題された一編です。
エッセイは吹雪の北極圏で星野さんが初めての子どもの誕生を知る 場面から始まります。 良い映像を撮ろうと焦るばかりで、せっかく目の前に広がる素晴ら しい風景を見ようとしないテレビ番組のスタッフたちに心を痛め、 星野さんはディレクターにこんなことを伝えたそうです。 「私たちが生きることができるのは、過去でも未来でもなく、ただ 今しかないのだ」と。
以下、私が本書を通じて最も愛し、何度も何度も読んだ「ワスレナ グサ」の結びを、引用させてください。 こういう気持ちを忘れることなく、授かった我が子を育てていきた いと願います。
<以下『旅をする木』(星野道夫・文春文庫)より引用> 頬を撫でる極北の風の感触、夏のツンドラの甘い匂い、白夜の淡 い光、見過ごしそうな小さなワスレナグサのたたずまい…ふと立ち 止まり、少し気持ちを込めて、五感の記憶の中にそんな風景を残し てゆきたい。何も生み出すことのない、ただ流れてゆく時を、大切 にしたい。あわただしい、人間の日々の営みと並行して、もうひと つの時間が流れていることを、いつも心のどこかで感じていたい。 そんなことを、いつの日か、自分の子どもに伝えてゆけるだろう か。 いつまでも眠ることができなかった。風の音に耳をすませながら、 生まれたばかりの、まだ見たことのない生命の気配を、夜の闇の中 に捜していた。 <引用ここまで>
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