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2002年06月04日(火) ほたる狩り(歴史的かなつかひにて)



   行く螢雲のうへまでいぬべくは秋風吹くと雁に告げこせ  在原業平
                        
   草の葉を落つるより飛ぶ螢かな  松尾芭蕉
            
   川ばかり闇は流れて螢かな  加賀千代女
          
 家の裏、哲學の道疏水沿ひには今、螢が出てゐる。防犯のための街路燈と、民家の異常に明るい門燈のおかげで、螢も影がうすい。數も十數匹ゐるかゐないか。流れの上に枝を伸ばしてゐる木の暗い場所に集まつてゐる。見物が、「わーきれい!」と聲をあげるも、街路燈や門燈の光を受けながら見る螢は、晝日中や螢光燈の下で見る、舞子と同じで興ざめである。
舞子の白塗りは、夜のろふそく明かりの反射で、はじめて肌色に見える。あんなもの日中みたくない。
 それと、螢を見てゐる人逹のポケット、バックから攜帶電話の電子音樂がなる。遠慮なく出ては大きな聲で喋る。都會の生活をそのまま引きずつて螢狩りにくる。とにかく、喋らないと我慢できないらしい。
 
 小さかつた頃、ほたるが出ると、中庭で大きな盥(たらひ)に手押しポンプで水を入れ、お湯を割り入れ、行水をして、首囘り、からだを天花粉で眞つ白にした後、浴衣に着替へ、うちはと蟲かごを持つて、近くの河原に家族と螢狩りにいつた。螢はそこかしこに亂舞してゐた。その頃は田舎のこともあつて、街路燈なぞ無く、懷中電燈をさげて出かけた。螢は簡單にうちはでたたき落とせた。それを、近くの竹藪でむしつてきた笹を入れた蟲かごに入れる。さうしてひとしきり遊んだ。星空のやうに螢はゐた。
 家に歸ると、蟲かごに霧吹きし、井戸に冷やしてあつた西瓜を切つてもらつて食べた。その頃、テレビなんて普通の家には無かつたから、その後はすぐ寢る準備、蚊帳(かや)を部屋に釣つて布團を敷く。さうしておいて電氣を消し、この蚊帳の中で、螢を放す。螢が飛び交ふ中で眠つた。
 
 偶然、南佛で、借りてゐたジット(貸し別莊)に深夜、螢が一匹飛び込んできたことがあつた。捕まへてみると、日本の螢の螢光部は大きな一つの固まりだけど、フランスのそれは、直徑二ミリ位の發光部が腹に2つ竝んで分かれてつゐてゐることを初めて知つた。

          水鏡映えし螢や着信音  淡譚齋

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 これを書いた後、行水・すいかと、ほたるはをかしいのではないか、記憶違ひではないかと思ひ、調べてみたら、螢は7月下旬でも出ると云ふことで、記憶まちがひではなかつた。何せ4.5歳の頃のことです。










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