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2001年10月23日(火) チャップリンの黄金狂時代の秘密



 最近、BSで、チャップリン特集をやっていた。チャップリンは学生時代、京都アメリカンセンターで全部みた。その時は「黄金狂時代」も抱腹絶倒の連続で、もう腹の皮と頬の皮がおかしくなるくらいに笑ったのを覚えている。そうした印象だけだった。
だけれど今回BSで改めて「黄金狂時代」を見ていて、愉快で間抜けな主人公を素直に笑えなかった。というのも、シュテファン・ツヴァイクの『人類の星の時問』(みすず書房)という本の中に、書かれていたことを思いだしたからだ。
どういうことかと言うと、アメリカ建国から半世紀ほど経った頃、ヨハン・オウギュスト・ズータという、破産して無一文になったドイツ人が新大陸で、一旗揚げようとアメリカにやって来る。
数年ニューヨークで働いて金をためて、まだ手つかずの西部へと向かってカリフォルニアに移りすむ。そこでも地道に働き、ついに大農園を経営するまでになる。土地を開墾し井戸を掘り、家畜を育て、ヨーロッパに残してきた妻子を呼び寄せ、幸せな生活を送り始めた矢先に、彼の使用人が敷地内の中を流れる運河から砂金を見つけた。

この事実は堅く口止めされたが、あっというまに噂は広がってしまった。
手始めは農園で働いていた使用人が、仕事をほっぱらかして砂金取りに熱中した、つづいて噂を聞きつけたならず者達が全国から殺到し、勝手に敷地内に入り、農園の牛を殺して食い、穀物庫を壊し、勝手に自分達の家を建てた。
農地は踏み荒らされ、農機具などは盗まれてしまった。このヨハン・オウギュスト・ズータの個人の土地を、沢山のならず者が不法に占拠侵入して、次第に町が作られて行った。その町の名はサンフランシスコと呼ばれた。

 チャップリンの「黄金狂時代」はまさにこの、ヨハン・オウギュスト・ズータの個人の土地で繰り広げられた事だと思えば単純に笑えない。サンフランシスコは、個人の土地に大勢の欲に目がくらんだ人達が作った町だった。

 アメリカ人はオーストラリアを笑えない。オーストラリアは昔、犯罪者の島流しの地で、今でも、住民はその制度以後、ここに移住したと言うことを常としているくらい、オーストラリア人であることを、後ろめたいと思っている。

 ところで、それから、哀れなヨハンはどうしたか?勿論、もう法治国家だったから、裁判に訴えた。自分の土地を不法占拠している二万人!!に近い人々の退去、カリフォルニア州政府に対する賠償請求、これはどこまでも正論で、裁判ではすべて勝った。ところが、ここからが信じられない。この不法占拠しているならず者が暴動を起こし、なんと裁判所を襲い、裁判官をリンチにかけようとした。おまけに、彼の全財産を略奪しようと企て、全てを奪い去った。
それが原因で子達はピストル自殺をし、ヨハン・ズーターもついに狂ってしまったと言われている。

 自分にとっての自由は、相手にとっての不自由だと言うことをアメリカはいまだに理解できないでいる。










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