行かず後家。
もう時効なので書かせていただくが。
まだ私が22〜23歳だった頃、患者さん(伊藤さん・仮名・女)にえらく 怒鳴られたことがあった。
残業後、たぶん22:00を過ぎていたのだと思うのだけど、私と後輩は 自販機でジュースを買い、ロビーでぐったりと身体を休めていた。 ちょうどそのときポケベルで呼ばれたドクターがやってきた。 そこに問題の伊藤さんが登場。担当医でもないのに、その伊藤さんに いちゃもんをつけられ、そのドクターと伊藤さんは口論になった。
オロオロと見守る事務員。白熱する患者。醒めて行くドクター。
ドクターも患者急変で呼ばれているので、その場を早急に離れなければ ならなかった。まだ興奮さめやらぬ伊藤さんは「訴えてやる!」と喚き 散らし始めた。たかだか3分くらいの口論で。
「貴方たちも見たでしょう?!証人になってもらいますからねっ!」
冗談でしょう?(・∀・) 巻き込まないでいただけますか? …でもまさか、あれだけの口論で訴訟にはならないだろうとタカを くくっていたので、その日は適当に切り上げて帰った。
次の日、その伊藤さんと階段でバッタリ会った。
「あなた、昨日あそこにいた人ね?ちょうど良かったわ。日曜日、うち に来てくださる?訴訟の準備をしたいので、証人の確認をしたいの」
「ちょっと待って下さい。そのような大事なことであれば、私の一存で 決定することはできません。でももしどうしてもとと仰るなら、正式 な手順を踏んでいただかないと…」
「(むかっ)あんた、いくつ?」「22歳(23歳だったかも)です」
「結婚は?」「していません。」「あなた、私の病気を知ってるの?」
「申し訳ありません、存じません」
「私の病気も知らないで、よく事務員なんてやってるわねっ」
「(むかっ。患者はアンタ1人じゃねーんだよっ!)……。」←無言。
「とにかく日曜日、私の家に来なさい」
「困ります。そのようなことは私の上司を通して下さい。」
「なんですって?この行かず後家っ!」
いーかーずー後ー家ぇ?p( ̄□ ̄#
22歳のうら若きOLを捕まえて「行かず後家」とはっ! なんたる屈辱!なんたる侮辱っ! 実は上に書いた会話はごく一部で、とにかく伊藤さんはしつこかった。 上司に報告に行くというと、腕を掴まれて阻止された。
「とにかく困りますから!」と言い放ち、腕を振り切り上司に報告に 行った。話しているうちに、だんだんと私も興奮と恐怖で震えだし、 挙句の果てには「行かず後家、行かず後家、行かず後家!」…と頭の なかで輪唱しだし、悔しさと情けなさとで泣き出してしまった。
伊藤さんは自分の病気にかなりナーバスになっていて、精神的に不安定 だった。あれからもいろいろとモメたのだが、最初から訴訟などになる ようなことでもなく、いつの間にかフェイドアウト。
昔から人に怒鳴られるということが殆どなかったので、その第一声が 「行かず後家!」であったことに、いまさらながらにショックを受けて いる。もし今それを言われたら、逆に開き直れるかもしれないけれど、 当時うら若き乙女だった私には、無縁の言葉だったはずなのに。
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