祈り。
昨日食卓を囲みながら、父と寂しく夕ご飯。 ちょっぴり贅沢な鍋をつつきつつ、2人でビールを飲んでみたり。
「この間ナァ。俺より一年あとに俺と同じ病気で手術した友達が 死んだんだよ。この間、一緒に釣りに行ったばかりなのになぁ」
父がつぶやいた。ドキリとした。
「転移してたの?」 「わからない。でもそうだったんだろうなぁ。顔色悪かったしなぁ」 「でもお父さんは、外来できちんと診察も受けてるし大丈夫だって」 「だけどなぁ、今はいいけど俺だっていつどうなるかわからないよ」
いつになく弱気だ。きっと余程ショックだったんだろう。 父は病気の最中も、決して泣き言を言わなかった。 「痛い」とも「苦しい」とも。 熱がでて全身ブルブル震え、声まで上ずっていたのにもかかわらず、 「何ともない」と言い張った。←結局私が看護婦さんを呼びに行った。
だけどこの間、偶然に父と歯医者でバッタリ逢った。本当に偶然。 活字を殆ど読まない父が、週刊誌を読んでいた。 ナニを読んでいるのかとそ〜っと近づくと「癌はどこまで治せるか」 というような記事だった。声がかけられなかった、何となく。 そういう自分を、父も見られたくないだろうって思ったから。 違うページに移ったのを確かめてから、声をかけた。
きっと眠れない夜は、自分の寿命のことや、転移の恐怖を一人で 噛みしめている人なんだろう、きっと。 最近、眠剤を飲む回数も増えたようだ。
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とにかくチゲ鍋をつつきながら、テレビを見ていた。 父は初めて食べるチゲ鍋にご機嫌だった。 なぜか子供の頃に苦労した話とか、死んだ兄弟のこととか、実家が 火事になったことなどを、延々と話し始める。 聞いたことのある話だったし(知らない話もあったけど)、なにせ テレビが気になって話半分に聞き流していた愚娘。
すると父が、それまでと同じ口調でサラリとこう言った。
「こんな昔の話ばかりして、俺近いうちに死ぬんじゃないだろうか」
アタシの顔色が一瞬変わった。でも必死に平静を装い、
「ちょっと〜、縁起でもないこと言わないでよ〜?」と軽く窘めた。
笑ってはいたが、あたしは実際とてもとてもうろたえていた。 心臓が早鐘のようにドコドコ打った。
お願い父ちゃん。そんなこと言わないで。 不安な気持ちを、そうやって素直に口にしないで。 この不甲斐ない娘は、あなたのその不安を取り除いてあげられないよ。
さっきまで美味かったビールが、少しだけ苦くなった。 それは時間がたったというだけではないと思う。 やりきれなくてお風呂に入った。←逃げたともいふ。
湯船に浸かりながら、演歌番組にあわせて歌う父の歌声を聴いていた。 ヘタくそだけど味のある歌い方だ(笑) ずっとこのままでいられますように。 何となく少しだけお祈りをしたバスタイム。
手術をしてからもうすぐ丸二年。がんばれ、父ちゃん。 明日は生姜焼きだぞ。
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