comfortable diary



玄関の小犬。

病院の正面玄関に小犬が座っていた。もしかすると成犬なのかもしれない。
だけど、まだか弱く臆病そうに私には見えた。

初めは鎖に繋がれているとおもった。
だから寄っていって、頭をなでたり、話し掛けたりして少しだけ遊んだ。
いくら玄関の中にいるとはいえ、その日は最高気温でも氷点下の真冬日。
すきま風がびゅんびゅん入ってくる。私も思わず身を縮めた。
その小犬もプルプル小刻みに震えていた。
ふと見ると、首輪から繋がれているはずの鎖が見えない。

あ、この子、繋がれていないんだ。

それなのにその小犬はだまって主人の帰りを待っている。
なぜ判るか…? だって小犬は私達を見ていない。主人が去っていった方向を
ずっとみつめているのだから。逃げようとも探しにいくのでもない。
ただじっと「ここにいなさい」と言った主人が自分のもとに帰ってくるのを
待ちわびているのだ。

一瞬、捨て犬かと思った。外に捨てるよりは暖かいところだし病気の人々が
出入りするところなら、心優しい人が多いような気がするから。
私にそんなふうに思わせるほど淋しさや孤独感のようなものがその小犬にはあった。
すると30代くらいの男性が、その小犬に近づいてきた。私も仕事があったので、
彼と入れ違いに事務所へ戻る。「飼い主なのかな?」と思いながら。

でも犬好きの同僚たちがソワソワしていることで、まだそこにあの小犬がいることを
確認できた。私も気になって仕方がない。用事をつくってまた玄関に見にいく。
まだ小犬はそこにいた。でもたった10分くらいのあいだにさっきの小犬ではなくな
っていた。

玄関に座り、主人の帰りを待ち続けている小犬の首には、大判のハンカチがまるで
マントのように結ばれていた。寒さに震えている小犬を見るにみかねて、あのすれ
違った男性が結んであげていたという。優しさというマントを身に纏い、小犬は
背筋をピンと伸ばし、さっきと同じ方向を見つめていた。
私の思い込みかもしれないけれど、その姿は少し誇らしげに見えた。

次にみたときにはもう小犬はいなくなっていた。
お見舞いを終えた飼い主が戻ってきたのだろう。いなくなった小犬の場所を眺め、
自然に柔らかな表情になった自分に気づく。唇の端が心なしか上向きで、今日は
もしかするととても穏やな気持ちで過ごせそうな気がした。


2001年01月19日(金)




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