私は薔薇が好きです。 ある日、仲の良いお友達が、それを聞いて、「そうですか」といいました。
次の日の朝起きてドアを開けると、玄関のそばの地面の上に、赤い薔薇の花が、何本も何本も、しきつめてありました。その枝からは、みんなきれいにとげがとられていました。 お友達がそこにいて、優しい笑顔でいいました。 「ついでがあったので、薔薇を飾ってみました。とげはあなたの手が傷付くといけないので、みんなむしっておきました」 その人の手は、薔薇の刺で傷付いていました。
次の日の朝、起きると、また薔薇の花が、玄関の前にありました。 前の日よりももっとたくさん、赤い花がしきつめてあるのでした。 お友達が笑顔でそこにいて、いいました。 「今日もついでがあったので、薔薇を飾っておきました。嬉しいでしょう?」 その人の手は、薔薇の刺で赤く腫れ上がっていました。
次の日の朝も、次の日の朝も、薔薇の花は玄関の前にありました。 いえきがつくと、いつか、薔薇の花は、家のまわりすべてを埋め尽くすようなようすで、一面に敷き詰められているのでした。 赤い薔薇の海の中で、そうして、笑顔でお友達はいうのです。 「嬉しいでしょう?」 真っ赤に腫れた手を、隠すようにしながら。 「いえ、気にしないで下さい。私はこういうことが好きなだけなんですから」
私はつい、いってしまいました。 「薔薇の花はきれいで、とても嬉しいけれど、これでは私は、外にでてゆくことができません。薔薇の花を踏んでいくわけにはいかないじゃないですか?」
すると、お友達は、深いため息をついて、涙を流しました。 「この薔薇の花を毎日用意するために、私がどれほど苦労したのか、あなたにはわからないんですか? どれほど私が痛い思いをして、あなたのためにとげをとったか。あなたのために私は寝ないで、これだけの薔薇をしきつめたんですよ」 そうして、お友達は、薔薇の赤い海の中を去っていきました。
私は薔薇の赤い海に包まれた家の中で、やはり涙を流しました。 なぜなら、それが私のためならば、私はとげがない無数の赤い薔薇の花なんかいらなかったからです。 そのお友達の手が傷付かない方が、ずっと私は幸せだったからです。
私は薔薇が好きだから、とげがある薔薇でも愛せたし、一面の薔薇の花の海じゃなく、一本の薔薇でも本当に嬉しかったでしょう。贈ってくれるなら、美しく高価な赤い薔薇の花でなくても、道端の小さな野ばらでも、垣根にさいた終わりかけの薔薇でもよかったのです。 いえ、いっそ、何もいらなかったのかもしれません。 そのお友達が、幸せであれば。
遠い昔の、これはひとつの寓話です。
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