日々の泡・あるいは魚の寝言

2002年02月07日(木) 遠い日の声

久しぶりに、ローカルFMをお昼にききました。
もうずうっと昔に、FM局で、はがきを読むお姉さんのアルバイトをしていたことがあるので、なんとなーく照れくさくて、ふだんはFMはきかなかったのです。
しばらくぶりにきいたFMは、懐かしいような面はゆいような感じでした。でも、いやじゃなかったので、これから、たまにはきくようにしようかな?

FMでのバイトの思い出は、いろいろあります。
でも、その中でも、とくにひとつ、小さな思い出だけど、心に残っているエピソードがありまして…。
二月の、今の時期になると思い出すんだよなあ。

うん。これはもう、時効だろうから、書いちゃおう。

私は、早朝から、FM局で働いていました。
朝、六時半だったか、七時だったかに、天気予報をひとりで読み、曲を一曲かけ、なにやらドライバーのみなさんに一言声をかけるのが、私の一日の始まりでした。
で、番組が始まる前、当時はファックスが普及するか普及しないかの頃だったのですが、当日のお天気をきくために、気象協会に電話をかけていたのです。
長崎支部(支局?)か、福岡支部のようなところだったと思います。
何しろ昔のことで、ちょっと記憶があやふやなのですが、ファックスで気象情報を送ってもらった上で、電話でも何かを聞いていたような記憶があります。あれはなにをきいていたのかなあ? 気温? 注意報とか警報の関係?

ほんの一言二言のやりとりでした。
朝の忙しいときですから、当然、私も相手の人も、無駄な会話はしません。
名前も名乗らなかったと思います。
でも、何人か変わる少数の人の声の中で、ひとり、きれいな声の若い男の人がいました。少し高い、澄んだ声で、優しく話す人でした。
「ああ、この声、いい声だなあ」と、ずっと思っていたのです。

その後、私は、アシスタントをやめて、番組の原稿を書くライターになることになりました。二月のことです。
最後に気象協会に電話をかける朝、電話をとってくれたのは、その声でした。
この声を、もう二度と聴くことはないんだなあと思った私は、手短に別れの挨拶をしたあと、思わず、いってしまいました。
「あなたの声、とても好きでした」
電話の向こうの声は、一瞬、沈黙しました。そして、いいました。
「私も、あなたの声が、好きでした」

それだけの話です。
それだけの話なんですが、今も、あの人の声が、耳に残っています。

お互いに名前も知らないままでしたし、だからあの人が、今どこで何をしているか私が知らないように、あの人も、私が児童文学作家になったなんて、知らないのでしょう。
あの人はあのあと、ちゃんと年をとって、きっと結婚もして、子どもなんかもいて(いや当時すでに、家庭があった可能性もあるんだけど)、私の本だと知らないままに、私の本を買ってきて、子どもに読んであげたりしているかもしれません。

この二月の空の下、幸せでいてくれるといいなあ、と、思います。
人の目には見えない、良い妖精のように、私はそれを祈っていたいと思います。
素敵な思い出を私に残してくれた、そのささやかなお礼みたいな気持ちで。







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