日々の泡・あるいは魚の寝言

2001年09月09日(日) 読書感想文「青い惑星」&「もうすぐ飛べる!」

現在、ルルー6,構成たてなおし中の村山です。
で、こんな時は、半ば現実逃避で、人の本が読みたくなるのです。

さっき読んだのは、「青い惑星」(長崎夏海・学研)
「もうすぐ飛べる!」(越水利江子・大日本図書)
おお、どっちの作家も季節風同人じゃん(笑)。

「青い惑星」は、シンプルに要約すると、自己嫌悪で精神的に死にかけていた小六の女の子が、作家志望の若い叔母さんにつれられて、サイパンへ行く。そこで、サイパンの歴史にふれてさらに滅入ったりするんだけど、大きな海に抱かれることによって、自分が(人間というイキモノそのものが)何か大きな存在に許されているんだということを知る(で、立ち直る)、という物語です。

私は長崎さんの作品と、相性がよいので、文章を読んでいても、キャラクターのせりふを読んでいても、うへへ〜と顔がにやけてしまうのですね。テンポがよくて、品がよくて、無駄がなくて、すきなの。
でもって、キャラ設定も、毎度、「頑固でピュアで不器用で、真っ正直で、自分一人で抱え込んで苦しむ」人がでてくるんで、そういう人物設定は大好きなので、感情移入しやすい。
構成もうまい。はしょるところは上手にはしょって、余韻も残すし。
このへんは、長崎さんは洋画(それもマイナー系)がお好きなので、影響を受けているのかなあ、と、思いますね。とにかく構成と演出が映画的。
回想シーンの入れ方も上手。

ただ、今回の本に関していうと、最後の「許されている」と主人公がさとるシーンが、もっともりあげるか、さりげなくすませるか、どっちかのほうがよかったんじゃないかな、と思いました。
ラストの「これからはお母さんとの関係も変わっていくだろう」みたいなことを主人公が思うあたりもいらないと思います。
一番気になったのは、現地の人がでてこないことかな? 遠景でもいいから、やはり、サイパンの人や、他の国の人の描写も読みたかったです。
そのへんがちょっと惜しかったけど、でも長崎夏海はやはりよいのですな、うん。

「もうすぐ飛べる!」は、クラスで、ゲームのようないじめにあったヒロインの、ささやかな戦いと、いやしの物語です。
これはねー。もうねー。
気が弱い人は読まないでほしい、といいたくなるほど、いじめのシーンが怖かった。いや別に、暴力的ないじめがでてくるわけじゃないですよ、「よくある」いじめが書かれているだけ。でも、怖いのだ。
おまけにいじめのシーンが多い。本一冊の、九割がいじめのシーンだったかも。
越水さんは、文章がうまい人ですから、よけいに辛い…。

さて、この女の子(こちらは五年生)、飛べない五位鷺の雛を発見して、「どうしよう、どうしよう」と、心配するのですね。雛の心配と、いじめの話と、あいまに、クラスの中でただひとり、味方になってくれるかもしれない動物好きの少年との間の、今にも切れそうな心の交流が交互に書かれている本です。

とっても心臓に悪かったなあ。
雛が死んだらどうしよう、と思ってました。
少年との間の友情も、先行きが不透明に見えたし。

結局は、ハッピーエンドで、よかったです。
でも、このハッピーエンド、いじめがおわってめでたしめでたしじゃないんですよ。いじめは続行中なのです。うう。
しかし、ヒロインは、たぶん男の子からもらった壊れやすい友情の証を抱きしめて、ささやかに戦い続けるんでしょうね。暖かい終わり方でした。
そうそう。鳥と卵、扇や面、といったものが暗喩として使われていておしゃれでしたね。

で、あとがきに、越水さんの一言がついていまして、いわく、「子どもには子どもの勇気がある。いじめと闘え、ヒーローになれとは私にはいえない」というような意味の言葉が書いてあるのです。
「いじめられている子どもにそっと手をさしのべること、その小さな勇気、それがゆくゆくはいじめをなくしていくのだ」と、そんな言葉が…。

ああ、と、私は思うのです。
越水さんは優しい。越水さんは、人格者だ〜。
いやこれは嫌味じゃなく、なのです。
越水さんの性格って…HPをみるにつけ、包容力があるのですよね。どんな人がきても、うけいれそうな心の広さがある。
根本的なところで、人間を信じている、信じたい人なのだと思います。

私はこういうのは書けないですね。
なぜって、誰かひとりや少数の人を信じることはあっても、多くの人を信じたりはしないから。もっというと、全体や集団を信じてないんです、多分。
人は孤独で、だからこそ、美しいんだと思ってるし。
だからこそ、人とつきあえるんだと思ってるし。
だから、いじめをテーマにした作品を書いても、個人の心の中で循環して、解決する話にするんじゃないかな、というか、そういう話をこないだ書いたな、実際。
(これはたぶん、長崎さんもこのタイプだと思います。ていうか、「人は孤独だ」というのは、いつも長崎さんの本にでてくる言葉だし)。
クラスの子からさしのべられた手で、主人公が立ち直る、という話は多分、書かないような気がします。
クラスの子じゃなく、学校外の人の助けなら、ありのような気もしますが…。
当事者じゃない人との出会いがきっかけになって癒されていくとかね。

私は、いじめられた主人公を、学校に何がなんでも返そうとは思わないし、いじめっ子と仲良くしなさいと書くこともないし。
好きな奴と好きなようにつきあってくれ、と思ってるし。
大体、うちのヒロインたちは妙にプライドが高い子ばかりだから、「いじめっ子なんて最低の人種だから、たとえ謝られても、私は二度とつきあわない」くらい、いいかねない…と思う。
いま書いてて思ったけど、すごくやなキャラですね。
いかにも、いじめられそう(笑)。

でも、こういうことを書いていても、「もうすぐ飛べる!」という作品は嫌いじゃないし、作品のもっているメッセージも、貴重なものだと思っています。
ただ、作家の個性って面白いなあと、感慨に耽ったというお話でした。
いろんな作家がいて、いろんな本がでて…そりゃいいことだと思います。






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