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指輪物語関連ファイル

YUKI


2004年02月10日(火)
 王の帰還のアラゴルン


PJの映画三部作のアラゴルンは原作とは別人です。
彼は、自分の血筋や、アルウェンとの恋を、引き受けることをためらうモラトリアムな人です。
しかし、『旅の仲間』では、フロドを守り、ボロミアと関わるうちに
自分の運命を引き受けることを決意します。
そこにははっきりした筋道があって、私はやはり三部作の中では
『旅の仲間』が一番好きだし、ここに出てくるアラゴルンが好きです。
でも『二つの塔』と『王の帰還』のアラゴルンはいただけない。
なによりも、映画の中のアラゴルンには
大局に立って、国の行く末を考える王としての視点が欠けています。
そんな彼が王様になっても、中つ国がちゃんとやっていけるのかわからない。

PJの映画を見て一番原作と違うのは、登場人物たちが
物事をどのように見ているか、ということだろうと思います。
アラゴルンが自分の悩みにこだわり続けたように、
他の登場人物たちも、自分の問題に足をとられています。
エルロンドは娘の心配をし、ファラミアは父親の歓心を求め、デネソールは国を忘れ
サムはフロドの気持ちがゴクリに傾いたことを嘆き、レゴラスはアラゴルンの心配ばかりする。
それは原作の登場人物たちが、今、自分は何をすべきか、と考え
皆のため、フロドのため、中つ国のために、しなければならないことを最優先させたのと対照的です。
メリーとピピンが陽気なホビットから、一人前の騎士に成長したのは
広い世界に出て、ひとつ上の視点からものを見るようになったためだと思います。
PJ達は、人間的なキャラクターにしようと思ったのかもしれません。
もっと現代的に。もっとわかりやすく。
それは意図的だったのか?それともPJほか脚本家の人間理解がその程度なのか?
もう少し、原作の持つ品格みたいなものが、この映画の中に通っていたなら
どんなに素晴らしかったでしょう。

映画を好きになって、映画に出てくる俳優たちのこれまでの作品を見て
彼らのインタビュー記事を読むうちに、それぞれがどういう人なのか
ある程度わかるようになってきました。
私はアラゴルンを演じるヴィゴ・モーテンセンが好きなのですが
彼は映画のアラゴルンよりもアラゴルンらしい(笑)人です。王様ではないけれど。
ヴィゴは他人を尊重し、自分の正しいと思ったことをすることができる。
人の話を聞き、受け止めることができる。
そして自分の考えを自分の言葉で話すことができる人です。
その彼が映画のアラゴルン役を演じているのに、あれでは少しもったいない。

反対に、サムを演じるショーン・アスティンはサムとは全然違う考え方の人のようです。
これは実はアルウェン以上のミスキャストではなかったかしら?
と私は『二つの塔』で思いましたが、『王の帰還』では、なんとかかんとか許容範囲でした。

映画は共同作業であり、特にこの映画は普通の映画よりも
ずっと大規模で関係者の数も多い作品ですから、
いろいろな要素がこれほど揃って完成したのは奇跡のようです。
キャスティングはほぼ完璧。美術も小道具も大道具も音楽も特撮も素晴らしい。
あともう少し、ストーリーに一本芯が通っていたら、
どんなに素晴らしかっただろうと、それだけが心残りです。