6匹目の兎<日進月歩でゴー!!>*R-15*

2007年03月14日(水)   甘さよりも 

二本目のブツ、更新。

どちらも短文なので。
二本くらいアップしないと、更新した気分にはならぬものですナ☆ ウカレテルネ

SSSベースは、なんとも切なさ120%。
書いてると、身悶えするほど、萌えます。 ←潜伏中に変質度がアップした模様

でも、切ないだけでないのが、もっと萌えるわけで。
そんな雰囲気を書いてみたんですけど、どうなのか(笑)

















































カフェでチョコを貰った。
頼んだコーヒーに添えられたものに首を傾げると、店員がにっこり笑った。
バレンタインにちなんで、男性客に配っているもので、コーヒー風味のチョコだそうだ。
コーヒーを口に含んで、その苦味を味わいながら、貰ったチョコの包みを眺める。
大きさからして、一粒を箱に収めたものらしかった。
手が込んでいる。
昨今のサービス業はここまで客にアピールをするものなのか、少し驚いた。
一粒、丁寧に包まれたそれは、甘いのか苦いのか。
そんな事を考えながら、コートのポケットに仕舞った。





隊長になって与えられた執務室で、書類の海に嫌気が差した時。
不意に、思い出した。
ソファに投げ出したコートのポケットを探って、取り出す。
手の中のその包みをしげしげと見つめた、その時。
扉が開き、義眼の大男が姿を見せた。
「・・・バトー。戻ってたのか」
諌めても、単独行動を止めないバトーが執務室に顔を出す事は、滅多にない。
気まずげに眉間が動き、紙の束が差し出された。
「ああ、報告書、出そうと思ってな」
「──そうか。後で目を通すよ。ありがとう」
開いた手で、その報告書を受け取る。

お互いに、気配を探り合って会話をするようになってから、だいぶ経つ。
しかし、それも時の経過と共に、馴れていきつつあった。
寂しいとか、辛いとか、苛立ちとか。
そんなほろ苦い感情は、この男と一緒に居るようになってから、何度もあったし。
今更、それに傷ついて泣くほど、子供でもない。

ただ、時折、たまらなくなりはするが。






沈黙の静寂が、いつものように、周囲を埋め尽くそうとした。
が、そうはならなかった。
「スミにおけねえな、トグサ。誰から貰った?」
少し、気安さを演じたような低声が、耳に届いたからだ。
「え?」
一瞬、何を言われたのか解らず、聞き返した。
すると、バトーの太い指が、報告書を持った手ではない方を指す。
「──ああ、これか」
カフェで貰ったチョコ。
珍しく仕事以外の話をしてきたバトーに、演じていると判ってはいても。
それでも少しだけ、心が浮き足立った。
自分でも制御できない、そんな感情を抑えつけながら、苦笑してみせる。
「誰から、なんてものじゃないよ。カフェで配ってたんだ、男性客にって」
言いながら、なんとなく、今。
包装を解いてみようと思った。
書類を机に置き、チョコの包みを開けて、半分齧ってみる。
琥珀色をした、丸い形のチョコは、欠けて半円になった。

舌に、チョコというよりは、コーヒーの苦味が滲んでいく。
だから。
甘さ、というよりも、ほろ苦さが口中に広がった。
「美味いか」
バトーの問いに、少し考えてから、答える。
「不味くはない。けど」
「けど?」
「癖にはなりそうな味だ」
甘さよりも、今は、苦さのほうが好ましい。
それは自分の嗜好がより深みを増したのか、それとも、今の心境に根ざしたものなのか。
はっきりとは解りかねた。

「お前はコーヒー狂だからな」

その時の、声に、心が震えた。
バトーの言葉が、以前のような響きを持っていたことに、気付いたのだ。
今だけ、一瞬だけのものでも。
甘い響きを感じた事に、口許に笑みが浮かぶのが止められなかった。
けれど、瞬時に。
縋れば、これから先が、辛いと己を戒める。

甘さよりも苦味を、常に抱えているほうが、いいのだ。

打ち消すように、残った半分のチョコを口に放り込む。
次いで、指先の熱で溶けたのだろうチョコを舐め取ろうとしたが。
その手は伸びてきた大きな手に遮られた。
離れた距離にあったはずの、短くなったバトーの髪が。
呼吸をすれば息が届き、さらりと揺れる、そんな近距離にあった。
そして。
滑らかな舌が、人差し指を舐めてゆくその感触に、身が竦んだ。

「苦いな」

バトーは一言呟き、口許に薄っすらと笑みを浮かべた。
優しげなその笑みは、昔、よく見たものだった。

「俺ももうアガる。お前もほどほどにして、帰れ」

そう言葉を残して出て行く、バトーの背中に。
知らず、溜息が零れ。
胸に湧き出し、滲むその感情を、持て余した。











END


 < 過去  INDEX  未来 >


武藤なむ