二本目のブツ、更新。
どちらも短文なので。 二本くらいアップしないと、更新した気分にはならぬものですナ☆ ウカレテルネ
SSSベースは、なんとも切なさ120%。 書いてると、身悶えするほど、萌えます。 ←潜伏中に変質度がアップした模様
でも、切ないだけでないのが、もっと萌えるわけで。 そんな雰囲気を書いてみたんですけど、どうなのか(笑)
カフェでチョコを貰った。 頼んだコーヒーに添えられたものに首を傾げると、店員がにっこり笑った。 バレンタインにちなんで、男性客に配っているもので、コーヒー風味のチョコだそうだ。 コーヒーを口に含んで、その苦味を味わいながら、貰ったチョコの包みを眺める。 大きさからして、一粒を箱に収めたものらしかった。 手が込んでいる。 昨今のサービス業はここまで客にアピールをするものなのか、少し驚いた。 一粒、丁寧に包まれたそれは、甘いのか苦いのか。 そんな事を考えながら、コートのポケットに仕舞った。
隊長になって与えられた執務室で、書類の海に嫌気が差した時。 不意に、思い出した。 ソファに投げ出したコートのポケットを探って、取り出す。 手の中のその包みをしげしげと見つめた、その時。 扉が開き、義眼の大男が姿を見せた。 「・・・バトー。戻ってたのか」 諌めても、単独行動を止めないバトーが執務室に顔を出す事は、滅多にない。 気まずげに眉間が動き、紙の束が差し出された。 「ああ、報告書、出そうと思ってな」 「──そうか。後で目を通すよ。ありがとう」 開いた手で、その報告書を受け取る。
お互いに、気配を探り合って会話をするようになってから、だいぶ経つ。 しかし、それも時の経過と共に、馴れていきつつあった。 寂しいとか、辛いとか、苛立ちとか。 そんなほろ苦い感情は、この男と一緒に居るようになってから、何度もあったし。 今更、それに傷ついて泣くほど、子供でもない。
ただ、時折、たまらなくなりはするが。
沈黙の静寂が、いつものように、周囲を埋め尽くそうとした。 が、そうはならなかった。 「スミにおけねえな、トグサ。誰から貰った?」 少し、気安さを演じたような低声が、耳に届いたからだ。 「え?」 一瞬、何を言われたのか解らず、聞き返した。 すると、バトーの太い指が、報告書を持った手ではない方を指す。 「──ああ、これか」 カフェで貰ったチョコ。 珍しく仕事以外の話をしてきたバトーに、演じていると判ってはいても。 それでも少しだけ、心が浮き足立った。 自分でも制御できない、そんな感情を抑えつけながら、苦笑してみせる。 「誰から、なんてものじゃないよ。カフェで配ってたんだ、男性客にって」 言いながら、なんとなく、今。 包装を解いてみようと思った。 書類を机に置き、チョコの包みを開けて、半分齧ってみる。 琥珀色をした、丸い形のチョコは、欠けて半円になった。
舌に、チョコというよりは、コーヒーの苦味が滲んでいく。 だから。 甘さ、というよりも、ほろ苦さが口中に広がった。 「美味いか」 バトーの問いに、少し考えてから、答える。 「不味くはない。けど」 「けど?」 「癖にはなりそうな味だ」 甘さよりも、今は、苦さのほうが好ましい。 それは自分の嗜好がより深みを増したのか、それとも、今の心境に根ざしたものなのか。 はっきりとは解りかねた。
「お前はコーヒー狂だからな」
その時の、声に、心が震えた。 バトーの言葉が、以前のような響きを持っていたことに、気付いたのだ。 今だけ、一瞬だけのものでも。 甘い響きを感じた事に、口許に笑みが浮かぶのが止められなかった。 けれど、瞬時に。 縋れば、これから先が、辛いと己を戒める。
甘さよりも苦味を、常に抱えているほうが、いいのだ。
打ち消すように、残った半分のチョコを口に放り込む。 次いで、指先の熱で溶けたのだろうチョコを舐め取ろうとしたが。 その手は伸びてきた大きな手に遮られた。 離れた距離にあったはずの、短くなったバトーの髪が。 呼吸をすれば息が届き、さらりと揺れる、そんな近距離にあった。 そして。 滑らかな舌が、人差し指を舐めてゆくその感触に、身が竦んだ。
「苦いな」
バトーは一言呟き、口許に薄っすらと笑みを浮かべた。 優しげなその笑みは、昔、よく見たものだった。
「俺ももうアガる。お前もほどほどにして、帰れ」
そう言葉を残して出て行く、バトーの背中に。 知らず、溜息が零れ。 胸に湧き出し、滲むその感情を、持て余した。
END
|