2006年06月19日(月) |
鬼の守人 ─嚆矢─ <四>/<伍> |
更新とか、している場合じゃない。 なのに。 そういう時に限って、他の文に手を出し、進んでしまう罠。
バッカジャナイの自分・・・? (文だけじゃなく、掃除までしてしまった人がここに居ます)
原稿と格闘中によりご無沙汰、そして、お待たせしておりましたが。 上記のような理由で、鬼の続き、更新です。
少しでも、楽しんでもらえれば、幸い。
兎と馬が出会った少女の正体は、かなりの割合でバレバレだった罠も発動です。 ・・・まぁ、判り易すぎだったでしょうけれど(笑)ィヒ
四、心眼
幼い子供は、汚れない目で、この世のものならぬモノを見ることが出来る。 それは本来、誰でもが持ち得る力であるが、持ち続けられる力ではなかった。 徐々に大人になるにつれ、消えていく。 けれど、稀に。 強く、そのことが魂に刻まれている子供がいる。 目に見える世界と見えぬ世界の境界を越え、そこにある真の姿を捉える、そんな力を有する子供が。
総じて、このような子供を”見る者”「見者」、もしくは”鬼を見る者”「見鬼」という。
この少女は、どうやらその稀な子供のようだった。 力のある者にも視えぬ様に気配を消している馬濤を容易く視ることが出来るのだ。相当の力をその目に秘めているといっていいだろう。 兎草は少女の目線に合わせる為に膝をついた。 幼かった自分と、同じ視界を持つ、少女。
生きている者と、死した者。 人で無いモノ達。 淡く、霞む影。 触れられるほどに強い、想いの、欠片。
区別なく視える世界を兎草は知っている。 そして、この、目の前の少女も。 つぶらな瞳が、兎草を見、馬濤を捉えた。 「君、これが視えるんだね?」 「うん。みえているわ」 「ふふん?俺が視えてるなんて、このチビ、見込みがあるじゃねえか」 馬濤は笑いながら、大きな身体を屈めると、少女をまじまじと眺めた。 すると。 「ちびじゃないわ!みきよ!!」 みきと名乗った少女は、厳つい大男を怖れる様子もなく見上げ、眉を吊り上げた。 「おお、威勢もいいな」 まるで仔犬でもからかっているかのように、馬濤の大きな手が、少女の結わえられた髪を引く。 それを視線でたしなめながら、 「みきちゃん、っていうのか」 その名を口にのせた時、兎草の内側で何かが囁いた。 けれど、それが何かは、判らなかった。 しいていうなら、心にひっかかる、とでも言おうか。 「俺は、兎草っていうんだ。で、こっちの黒いのは、馬濤」 頭の片隅でそれを訝しみながらも、兎草はみき、と名乗った少女に向き直った。 「・・・ところで、みきちゃん。パパとかママは?一人でこんなとこに来たら危ないよ」 最近は物騒で、子供が巻き込まれる事件も多い。ここは田舎の中の都会的な場所ではあるが、それらと無縁であるとはいえない。 そんな兎草の言葉に、みきは肩を竦める。 「うちのほうがあぶないのよ。とってもこわい、とりがくるんだもん」 小さく溜息を吐いて、言葉を続けた。 「だから、おじいちゃまが、おそとににげなさいって。いまにげてるとこなのよ」 その答えに、兎草は息を飲んだ。 何かが、兎草の中で繋がった。 内なる囁きの、意味を知る。 「─────君、もしかして」
その瞬間だった。
伍、転変
緩やかに流れる気が、半紙に墨が滲むように、禍々しいものに変わっていく。
「兎草、動くな!!」
馬濤の声と変じていく気に、兎草は目の前の小さな少女を守るように抱きかかえると、身を竦めた。 ばさりと布が風を孕む音、そして、鋭く空の裂ける音が頭上で起こる。 二人を背に庇うように立ちはだかった馬濤が右腕を一閃し、何かを弾いた。 次いで、ギィィ、と耳障りな獣の咆哮が響き渡った。 その声に、背筋を悪寒が這う。 妖しの起こした突然の突風に、周囲から悲鳴が上がった。 驚き、蹲る人々の姿。 路上にいた人たちも、妖しの姿は見えずとも、風が孕む狂気を、敏感に感じたに違いない。 兎草は慌てて、少女を抱き上げると走り出した。 ここは、街中だ。このままだと、周りを否応なしに巻き込むことになる。 「馬濤!!」 誰だって、視えないモノに襲われる恐怖など、無いほうがいい。 「一先ず、逃げよう」 「そのチビが言ってた怖い鳥ってのは、アレみてぇだな?」 馬濤が、上空を警戒しながらついて来る。 「ちびじゃないってば!」 腕の中からまた抗議の声が上がった。
みき、美希。
兎草は確かに、その名前に聞き覚えがあった。 「間違いなく、あの鳥が、怖い鳥だ」 走りながら、空を仰ぐ。 その視線の先には、どす黒い羽を広げる鳥が、舞っていた。
人が届かぬ高みから、獲物を狙う猛禽類のように、禍々しく。
|