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 クジラの島の少女(B+)/ウィティ・イヒマエラ

「小さな勇気が世界を変え、女の子でもヒーローになれる」─ウィティ・イヒマエラ

ニュージーランドのファンガラの地で、一人の少女が生まれた─その名はカフ。クジラ乗りの先祖をもち、代々男を長としてきたマオリの一族に、初めて娘が授けられたのだ。しかし跡継ぎを切望していた、長である祖父は、カフをどうしても受け入れられない。頼もしく優しい祖母や叔父、そしてニュージーランドの自然に囲まれ成長するカフ。やがて彼女に不思議な力が備わっていることに、二人は気づく。一方、頑な祖父は跡取りの男の子を探しているが、上手くゆかない。そんな時、いつもそばには笑顔のカフがいた─。

そして運命の時は、突然、やってくる。クジラの異常な大群が浜に押し寄せた。かつてないマオリの危機に、一族全員が結集する。もはや為す術もない状況の中、クジラの声に導かれるかのように、少女は一人、海へと向かった・・・。

マオリの少女が起こす奇跡が、国境を越えて感動の涙をもたらす。ニュージーランドの国民的作家が描く、愛と奇跡の物語。

─カバーより


クジラとかイルカとかが出てきて、少女が出てくれば、無理やり感動させようとする話ではないかと疑ってよみはじめたが、予想に反してさらりと読めた。ただ、頻繁にニュージーランドのマウリ族の言葉(?)がそのまま書いてあるので、それが邪魔といえば邪魔。あるいはそれがあるから雰囲気が出ていいのか?雰囲気は出ても意味はわからないわけだから、ただの文字の羅列にしか思えないのだが。

この話は、「女の子だってヒーローになれる」というのがひとつのテーマなのだが、こうした南の島の話というのは、「女性」は非常に軽んじられていると感じる。というか、女性の役割は子供を生むこととしか考えられていないようなところがある。だが実際にこういった物語の中で、最も強いのは女性だ。この物語も例外ではなく、一番力を持っているのは一族の長である祖父の妻、つまり祖母である。力強く、愛情に満ち、そして情にもろい。まず例外なくそういった人物である。こうした祖母のもとで、心優しい少女に育った主人公のカフは、一族の伝説に込められた最後の救世主となるのだ。ここに登場する人たちは、みな「いい人」ばかりで、その意味でもほのぼのとするのだが、次第に迫ってくる文明の波や、世の中の嫌なことを経験するのは、カフの叔父である。彼だけがニュージーランドから外に出て、そういった文明の悪い部分を目にする。そして、だからこそカフの純粋な姿をより愛するようになる。

そして随所にクジラたちとホエールライダーの伝説をちりばめてあるのだが、それはカフの一族にとっては伝説ではなく、事実として、太古の昔からその言い伝えにしたがって生きてきた掟のようなものだ。陸ばかりではなく、海の中にも文明は押し寄せてきており、行く先を見失ったクジラたちは浜辺にあがって集団自殺する。自然を操ろうとする人間の思いあがりと、拒否しようとしても、嫌でもやってくる文明の波。だが、少女カフがホエールライダーになることにより、再び一族には未来が見えてくる。

しかし、これはとても不思議な物語だ。神話や伝説をもとにしたファンタジーのようでもあるが、現実もしっかり描かれている。そのかけ橋となるのがカフなのだが、彼女がクジラに乗って海に潜っていくところは、自分も水の中に潜っているような気がして、息が苦しくなるほど。カフは生き返るのだが、それは死を経て生き返ったのだろうか?それとも真のホエールライダーだったから、死ぬには至らなかったのだろうか?ファンタジーなのか、現実なのかよくわからないため、そんな疑問が残った。それに考えてみれば、私は本物のクジラを見たことがない。どれほど大きいものなのか、感覚として見当がつかない。なんとなく感動したとも言えるし、疑問がたくさんあるため、完全に理解していないとも言えるので、複雑な思い。


2003年09月11日(木)
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