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 七番目の天国/アリス・ホフマン


見分けのつかぬ家がずらりと並ぶロングアイランド郊外の新興住宅地。その一角の朽ちかけた家に、一人のシングルマザーが引っ越してきた。彼女の名前はノラ・シルク。8歳の息子と生後11ヶ月の赤ん坊を連れてやって来た。

離婚を罪悪のように考えるお堅い住人は、ノラに冷ややかな視線を投げかける。彼女は専業主婦の輪に入れてもらえず、息子は学校でいじめられる。それでもノラはひるまない。おしゃれでセクシー、開放的なその生き方に、やがて大人も子どもも、男も女も魅了され、それまでの人生を捉え直すようになる。そしてある日突然、一人の主婦が家を飛び出してしまった・・・。

自分らしい新しい人生を求めるシングルマザーが平凡な町に吹き込む自由の風を、マジカルに描く感動作。

─カバーより


カバーのあらすじを読むと、ジョアン・ハリスの『ショコラ』のような内容か?と思ったのだけれど、読んでみるとイメージは全然違う。フランスとアメリカの差と言ってしまえばそれまでだが、これは冒頭からすごく面白い。小説は書き出しが重要という見本のような本。そもそもアリス・ホフマンは好きなのだが、何やら胸騒ぎを起させるような書き出しは、あっという間にホフマンのマジカルな世界に引きずり込まれてしまうほど面白い。実際はマジカルでもなんでもないのだけど、なぜかそこに魔法が存在するような気にさせられるのが不思議。

読み終えてみると、基本のストーリーはやはり『ショコラ』に似ている。真面目一辺倒の人々が住む町に、ある日一人の女性(子連れ)がやってきて、なにか不思議な魅力で周囲を変えていく。最初は皆から拒絶されているのだが、いつの間にか受け入れられていく・・・。というわけで、基本は一緒。

『ショコラ』と大きく違うのは、アメリカの日常生活がリアルに描かれていて、まるで自分がそこで暮らして、登場人物たちと同じスーパーに買い物に行き、同じものを食べ、同じ空気を吸って、同じ月を見ているような気にさせるところ。ホフマンの世界はマジカルだと書いたが、それは物語の中にあるのではなく(もちろん、おや?魔法かな?と思う箇所はときどきあるのだが)、読者を冒頭から一気に物語の世界に引きずり込み、物語の登場人物と同じ町に住まわせてしまう、ホフマンの力量にあるのではないかと思う。

ノラの息子のビリーは登場人物の中で唯一不思議な力を持っており、人の心が読めるのだが、自分の打ち込めるものを見つけたとき、その力は消える。たまにノラの祖父ゆずりのおまじないが功を奏して、不思議なことが起きたりもするが、そのことが特別問題にされるわけではなく、当たり前の日常生活のように語られる。

描かれている人物たちにはそれぞれに特徴があり、特に主人公ノラはとても魅力的な女性だ。町の人たちが惹きつけられるように、読者もノラの魅力に惹きつけられてしまうのだ。物語はおおむねハッピーと言えなくはない内容なのだが、実際に書かれていない部分に、人々の悩みや苦しみが見えたりする。いつも元気なノラでさえ、何も書かれてはいないが、本当は多くの苦しみや悲しみを持っているのだ。それが、物語をただのマジカルなファンタジーということではなく、リアリティのある深みのあるものにしていると思う。


2003年07月25日(金)
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