ノート

2006年04月12日(水) 裏・訪問記

ちょうど2年前の春。
ある高校の練習見学に行った。
バッティングゲージの後ろに座っていたA監督(仮名)。
黒のサングラス、手には軍手、足元にはポカリ1リットル。
ちょっと、いや、かなり怖い。

話をしてみると陽気な方だった。
私が差し入れしたポカリのフタを開け飲み始めた。
1回に飲む量が半端なかったことをおぼえている。

選手たちは、それぞれメニューをこなしている。
ダラダラした感じはないが、のんびり。
ごく普通の県立高校の練習風景だった。

しかし、午後。その光景は一変する。
A監督がノックバットを持つと、選手たちの顔が妙に引き締まり
ポジションへ散っていった。
ノックスタート。
さっきまで穏やかだったA監督が黙々と鋭い打球を飛ばした。

「おめぇー何やっとるんじゃおらぁ!!!」

サングラスこそ付けていなかったが
グリっとした目が本当に怖かった。

「さっきもおんなじようなミスしただろーが!!
こらぁーちょっと来い」
と、レフトの選手をホームベースまで呼び出し
至近距離で同じように叫んだ。
すると、バットのグリップで軽く頭を叩いた。
「すみませんでした!!」と言い、定位置へ走っていく。
レフトだけじゃない。センターもライトもショートも。
熱くなり始めたA監督はグラコンを脱ぐ。
ますます気合いが入る。

気づくと、ノックは1時間も続いていた。
「いや〜疲れた疲れた。マネージャー!ポカリ!」
鬼の形相だったA監督の顔が和らいだ。

帰り際、選手たちと話しをしてみた。
“監督さん、怖いね。ノックすごいね”
「いや〜いつものことです。怖いですけど
でも、身が引き締まるっていうか、気合いが入るんで
僕たちもこれで良いと思ってるんです」
「監督さん天然でかわいいんですよ〜」
さっきまでビクビクしていた選手たちが
A監督をネタに笑っていた・・・

これまでたくさんの練習を見てきたが
間違いなくこの学校のノックが最もインパクトがあった。
部内暴力と思わせるそぶりがあっただけに
公開は控えている。
だが、この高校はその県で公立校の雄として
毎年のように上位に進出している。
「Aさんにはぜひとも甲子園に行ってもらいたいんです」
とは、近くにある私立校の監督さんの言葉。
定年間近のA監督に残された時間は、あと3年だ。


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