「キミ、最近おかしくないか?」
長考中、ふと顔を上げたらかぷりと顎を噛まれて顔を顰める。
「何が? 別にいつもとなんも変わんねーけど」
そう言いつつ、今度は滑らせるようにして耳たぶを噛んだ。
どちらも本気噛みで無く、甘噛みに近いものだけれど、それでも噛まれれば相応に痛い。
「だったら何で噛む。この頃キミ、気がつくとぼくに噛みつくじゃないか」
「だって、なんか美味そうなんだもん」
かぷかぷと、噛みながら話されてさすがに苛々して突き放した。
「いい加減にしろ、こんなことされてたら集中出来無い。真面目に打つ気が無いならもう止めるけど」
「えーっ、今すげえいい所じゃん。おれが追い詰めて、お前が四苦八苦してる。なかなか無い美味しい展開なんだからちゃんと次の手考えて打てよ」
「誰がぼくを追い詰めているって?」
ぱちりと右隅に石を置いたら、進藤はあーと悲鳴のように声をあげた。
「なんだよう、なんでそこに打つんだよう」
「そりゃ打つよ。いつまでもキミに調子に乗っていられては不愉快だからね」
もし気分の上昇に伴ってぼくを噛みたい気持ちになるのだとしたらそれも不快だ。
「あー、もー台無し。でもまたすぐにひーひー言わせてやるから」
「ああそうかい。ぜひ言わせて貰いたいね」
売り言葉と買い言葉の応酬をしながら悔しそうな進藤の顔を胸の空くような気持ちで眺める。
と、口先を尖らせていた進藤が急にぐっとぼくの方に身を寄せて、いきなりがぶりと項を噛んだ。
「痛っ」
一応甘噛みの範疇にあるものだったのかもしれないけれど、今度ははっきり痛かった。
「進藤っ!」
噛まれた場所を押さえながら睨み付けると、進藤は何故か非道くびっくりした顔をしている。
「…進藤?」
「あ、…うん」
しばし惚けたような表情をした後、はっと正気に返ったようになり進藤は赤くなった。
「どうした? キミ、本気で変だぞ」
「や、…なんていうか」
何故か言いにくそうに口を濁している。
「なんだ?」
「この頃おれ、おまえのことよく噛むじゃん?」
「うん。だからそう言っているだろう。野良犬じゃないんだからそう人をがぶがぶと―」
言いかけたぼくの言葉に被せるように進藤が言う。
「あんま自覚無かったんだけど、今なんか唐突に解った」
「…何が?」
理由は分からないけれど、口ごもる進藤を見ていたら噛まれた項が鈍く痛んだ。
「ん、なんていうか俺」
おまえとセックスしたいみたいと一気に言われて動けなくなった。
「は?」
「だから―」
「いや、いい。言い直さなくていい」
じわりと体の奥底から何かがゆっくり滲み出して来る。
熱く、肌を火照らせ焦れったくさせるそれは。
「えっと、あの、塔矢?」
ぼくが黙ってしまったので進藤が居心地悪そうにもじもじと身動きする。
「何か言えよ。言ってくれって、ほら」
「あ…ええと」
その瞬間、彼の肩に目が行った。
子どもの頃とは大違いの、広く逞しく育った肩。
あれに歯を立てたらどんなに気持ちがいいだろうかとぼくはぼんやりと考えていた。
「塔矢ってば! 怒ったのかよ? それとも呆れたのかよ」
「どちらでも無い、ぼくは」
ただキミを噛んでみたくなったと呟くように言ったら、進藤は更に驚いた顔になって、けれどすぐに嬉しそうに「いいよ」と言った。
「顔でも首でも肩でもどこでも、おまえの噛みたい所好きなだけ噛んで」
あ、でもアソコは噛み千切らないで欲しいなと、そこだけ妙に真面目に言ってくるので、ぼくは思わず彼を殴り、それから改めてお言葉に甘え、ゆっくりと彼の肩に噛みついたのだった。
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下ネタにならずにはいられないのかいというヒカル。
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