| 2015年11月08日(日) |
(SS)KILLER |
季節の変わり目と言えば聞こえは良いが、暑いのか寒いのかよくわからなくて毎日着る物に困ってしまう。
朝夕は冷えるのに日中は汗ばむ程の陽気だったり、かと思えば北風が吹いて1日中真冬のような寒さになったり。
特に困るのはコートで、薄手の物にするか厚手の物にするかで非道い時には小一時間も悩んでしまう。
「別にどっちでもいいじゃん。今日は天気が良いから薄手のを着て行ったってそんな寒くはならないと思うぜ?」
自分はもうさっさと薄手のコートに腕を通し、身支度を終えてしまった進藤は、二つのコートの前で悩んでいるぼくを可笑しそうに見て言った。
「でも帰りが結構遅くなるし、そうなったら冷えると思うし」
「だったら厚手のを着て行けばいいじゃん」
「でも今日はキミがさっき言ったようにとても天気が良いんだ。天気予報でも温かい1日になるって言っていたし、そうなるとこれだと暑すぎる」
「じゃあ薄手の方に決定」
「ただ風は北風だ。昼間は良くても日が暮れたらきっと凍えるように寒くなるよ」
ちょうど一年前、風邪を拗らせて寝込んだぼくとしては、なんとしても不要に体を冷やすことはしたく無い。
「それなら厚手の方にしておけよ。暑くなったら脱げばいいし、それで問題解決だろ?」
「脱いだらその後ずっと手に持っていなければいけないじゃないか。荷物が増えるのはぼくは嫌だ」
こいつ面倒臭い。
大きくため息をついた進藤の顔には、はっきりとそう書かれていたが、天晴れなことに彼は言葉にしてそれをぼくには言わなかった。
その代わりにクローゼットからマフラーを出して来て、それをぐるりとぼくの首に緩く巻く。
「取りあえずこれ巻いて行け。そうすりゃ温かいから。それで荷物が増えるのが嫌だって言うんならコートは薄手のを着て行けばそれでいいだろう」
「首回りだけ温かくても、体が冷えたら元も子もないじゃないか」
「うん、だからさ、もし寒くなったらおれが―」
言いながら進藤は背後に立って腕を回すと、ぎゅっとぼくの体を抱きしめた。
「―こうやって温めてやるからさ」
それで大丈夫だろと言う進藤にぼくは危うく逆上しかけた。
どこのジゴロだ! どこのたらしだ! よくもそんな恥ずかしいことを口に出して言えるなとのど元まで罵倒の言葉が溢れかけた。
けれど進藤の顔に邪気は全く無くて、どうやら素でそう思っているようなのだった。
「ん?」
促されてぼくは本気で困った。
「ばっ」
バカじゃないのかと言いたくて。
「……うん」
それが出来ずに頷いてしまった。
「有り難くそう……させて貰う」
もごもごと口の中で言うぼくに、進藤は満足そうににっこり笑った。
「よっしゃ、決定! 良かったな、決まって」
邪気の無いのにも程がある。
(これだから!)
薄手のコートに腕を通しながら、ぼくは進藤ヒカルはぼくキラーだと心の底から思ったのだった。
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天然アキラキラー、ヒカルです。
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