何度も口を酸っぱくして言っているのに、進藤は服を脱ぎっぱなしにする癖が直らない。
特に上着の類が多く、外出から帰って来て『取りあえず』椅子の背などにかけてそのままにしてしまう。
それを何度も繰り返すので椅子の背には何着も上着が重なることになり、甚だ見た目もよろしくない。
つい昨晩も注意したばかりだと思うのに、今日もまたソファの上に着て出たはずのジャケットが脱ぎ捨ててあった。
(一度帰って来て、別のものと替えたんだな)
脱ぎ捨ててあったのはコーデュロイ生地だったので、見た目は良いけれど少々重い。どこに行ったのかは知らないが、もっと軽くて動きやすいものにしたのだろう。
「…それでもハンガーにかける時間くらいあっただろうに」
本当にぽいと投げ出してあるのが腹が立つ。
いや、帰ったらちゃんと仕舞おうと思っていたんだってとは進藤がいつも言う言い訳で、実際本気でそう思っていたのだろうが実行されることは中々無い。
「少しキツく言った方がいいかな」
今度という今度は少し反省して貰わないとと思いながら取り上げて、ハンガーにかけようとした時にふとその肩幅が気になった。
(大きいな)
身長は進藤の方が高いとはいえ、それほど大幅に違うわけでは無い。
けれど体格は胸板の厚さというか肩幅も併せて進藤に大きく劣っている。
子どもの頃はぼくの方が背が高く、そんなに大きな体格差は無かったのにと思うとなんだか悔しくて、一体どれくらい違うのだろうかとジャケットに腕を通してみた。
(あっ)
その瞬間、ふわりと進藤の匂いがした。
進藤のものなのだから当たり前と言えばあたりまえなのだが、あまりに濃く漂ったので直接肌の香を嗅いだような気持ちになった。
その上ジャケットはやはりぼくには大きくて、すっぽり体が収まってしまったものだから、まるで抱かれているかのような錯覚に陥る。
「…少しくらい大きくたって」
(碁はまだぼくの方が上だ)
ため息混じりに呟いて、しばし目を閉じる。
厚手の生地は温かくて柔らかく、本当に腕を回されているかのようだった。
漂って来る進藤の匂いは心地良くて安らいで、それに少々、かなり腹が立つ。
いつからこうなってしまったのか。それとも背を抜かされた時にこうなると決まってしまったのだろうか。
「…キミなんか」
ジャケットの前を合わせながらぽつりと呟く。
「キミなんか、今もだらしない子どものままじゃないか」
だらしなくて、大ざっぱで、いい加減で。
でもこうして脱ぎ捨てられた服にくるまれているのは非道く気持ちが良いことだったので、叱るのはまた今度にしてやろうと思ったのだった。
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ただそれだけの話です。いや、まあ。惚れた方が負けなんですよ。 そして、なんとなく前の話の続きみたいなタイトルになってしまいましたが全然関係無い話なのでした。ごめんなさい。
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