| 2014年05月08日(木) |
(SS)飼い犬と性癖 |
「なあ、うなじ噛みたい。ちょっと噛ませて」
初めてそう言った時、ぶん殴られるかなと思ったのに、塔矢は少し驚いた顔をしただけで、あっさりと「いいよ」とおれに言った。
そこまで密着するのも初めてならば、肌に歯を立てるなんてことも初めてで、緊張したけれどいい気分だった。
「キミはまったく…いつも突拍子も無い」
後で苦笑したように呟いていたから、またおれが変なことを言い始めたくらいにしか思っていなかったのかもしれない。
その後も衝動的に噛みたくなるたびに塔矢にお願いして噛ませて貰った。
頬、耳たぶ、指先、肩。
その時々で場所は違うけれど、どこを噛んでも塔矢の噛み心地は最高で体から離れる度におれはものすごく満たされた。
もちろん痛みを感じる程強く噛んだりは絶対しない。甘噛み程度に止めている。
「何が甘噛みだ、相当痛い時も随分あったよ」
実際塔矢の首筋にはっきりと歯形をつけてしまい、いらぬ噂に晒してしまったこともあったのだった。
「キミね、どうしてそんなにぼくのことを噛みたいんだ」
ある日、呆れたように言われて唐突に解った。
「おれ、おまえのこと食いたいみたい」 「そう、ぼくを食べたいんだ」
驚くわけでも無く、怒るわけでも無く、ただ理解したというように塔矢は深く頷いてオレに自分を食べさせてくれた。
その時からおれ達は『恋人』同士になったわけなのだけれど、ふと尋ねたことに塔矢は実に怖いことを言った。
「え? キミで無かったら?」
賽の目に刻んで捨てているよと、にこりともせずに言われてぞっとした。
「どれくらい前からぼくがキミを好きだったか、キミは少し思い知った方がいい」
そして髪をかき上げてうなじをおれに晒すので、おれは賽の目に刻まれなかった己の幸運を噛みしめながら良い匂いのする恋人の肌に今日もゆっくり歯を立てたのだった。
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前に同じようなネタで書いたかも。すみません。こういうの好きなんです。 アキラにとってヒカルはかみ癖のある犬なんです。
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