SS‐DIARY

2014年01月20日(月) (SS)BACK TO THE BASIC


「一緒に観覧車に乗りたいな」

お台場での仕事の後に、塔矢がぽつりとおれに言った。

「いつも遠くから見ているばかりで一度も乗ったことが無いし」

それはおれも同じだけれど、野郎同士で観覧車ってどうなんだよと少し茶化し気味に言ってみる。

「別に構わないんじゃないか。男同士でも女同士でも乗りたければ乗ったって」

珍しくも民放でのテレビ収録が終わった後だったから、おれも塔矢もスーツ姿で、でも場所は観光地だから違和感バリバリで悪目立ちしていたと思う。

それでも塔矢は気にした風も無く、おれと連れだって宣言通り観覧車に乗った。

ゆっくりと、それでも端で見ていた印象よりは早く移動するゴンドラに乗ってそのまま空に運ばれる。

時間は夜、雰囲気だけはばっちりで、眼下に広がる夜景がとてもキレイだった。

「なあ、あっちに見えるの―」

ディズニーランドじゃねえ? そう尋ねようとした時に塔矢が外を見たままぽつりと言った。

「このまま一緒に死んでしまえたらいいのに」

出かかった言葉は喉に張り付いて、おれは殴られたような気持ちになった。

「…おまえ、そんなに苦しいの?」

向かい合わせの席、最初からずっとおれから顔を背けたままの塔矢がこつりとゴンドラのガラスに額をつける。

「別に…苦しくなんか無いよ」

ただ辛いだけだと、そしてそのまま目を閉じて静かに涙を一筋流した。

「おれはやだぜ、別れるのなんか」

「別れたりなんかしない。別れたりなんか出来ない」

だから辛いんじゃないかと、そのまま塔矢はゆっくりとゴンドラが再び地上に降りるまでの間、結局一度も目を開けなかった。

冷たいガラスに額をつけたまま、けれど再び泣くことは無く、ただ、ただ黙って俯いていた。

「降りようか」

なのに職員の手でゴンドラの戸が開かれた時、おれよりも先に腰を上げてさっさと一人で降りてしまう。

そうしてから初めて振り返り、おれに手を差し伸べた。

「進藤」

短く呼ぶ声にぞくりとした。

背後にはおれ達とはなんの関係も無い、ごくありふれた人達が観覧車に乗る順番待ちをしていて、何事かとこちらを見つめている。

普段なら人前で目立つことを極端に嫌がる塔矢なのに、今日は非道く挑戦的で、それがなんだか怖かった。

「降りないのか? だったらもう一周してくればいい」

微笑んで冗談のように言いながら、突き放す声は真剣だった。

ぼくと一緒に死ぬ覚悟があるならこの手を取れ、そうで無いならこのまま立ち去れと塔矢の目は言っていた。

どうして今。

どうしてそんなにも追い込まれてしまったのかと、考える暇も動き続ける観覧車は与えてはくれない。

でも何もしなければ永遠に失うんだろうなと、それだけは痛い程よくわかった。

(こいつ本当に)

何て傲慢で、何て恐ろしいんだろうか。

けれどたまらなく愛しいたった一人の相手。

コンマ数秒の思考の後に、おれはわざとらしくため息をつくと塔矢の手を思い切りぎゅっと握った。

「降りるに決まってんだろ、バーカ」

誰が好きこのんで一人きりで乗るかと、そしてそのまま飛び降りて衆人環視の中、手を繋いで小走りにその場を離れた。


「死んでやるよいつでも」

「え?」

「おまえが望むなら、いつだっておれは一緒に死ぬよ」

そう言ってやったら塔矢はよろめくように立ち止まり、それから笑い声に似た音を漏らすと唐突に俯いて泣いたのだった。


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なんとなく書き終わった後に、あーヒカアキに転んだばかりの頃に書いていたみたいな話だなあと思いました。

初心に返るというかなんというか。

痛々しいような、刹那なようなそんな二人も好きなんですよね。


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