SS‐DIARY

2014年01月11日(土) (SS)ファ○リーズ


「キミ、今日どこに行って来た?」

帰るなりじっと見つめられてドキリとする。

「え? 言ったじゃん。和谷達と飲み会だってば」

嘘では無く本当で、でもその時に冴木さんの彼女が友人連れで来ていて、その人が隣に座っていたことは話さない。

「新年会だっけ。…普通の居酒屋?それとも個室で飲んだのかな」

いつもなら塔矢はこんなに絡まない。へえ、そう。良かったねで済むはずがしつこく聞いて来るのはおれに思う所があるからだ。

「個室。十人以上居たし、野郎が多いと周りに迷惑だろ」

「ふうん」

野郎ばかりと言わなかったことに気がついたのか気がつかなかったのか、塔矢はしばらくおれを見つめ、それから黙って去って行った。

「豚汁が残っているから、もし食べ足りないのだったら温めて食べるといいよ」

「ああ、うん。ありがと」

冴木さんの彼女の友人は証券会社務めの美人で、年末に彼氏と別れたばかりだと言って随分積極的におれに話しかけて来た。

表向きは恋人がいないことになっているので邪険にも出来ず、かなり密着することになったのだが、帰る途中薬局に寄って消臭剤のスプレーを買って全身に吹き付けて来たので香水や化粧品の匂いは消えているはずなのだった。

(別にやましいことなんかしてないけど)

でも、口説かれたのは事実なので塔矢にはなんとなく後ろめたい。

これで疑惑が解けたならいいのだけれどと思っていると、行ってしまったと思った塔矢が再びまた戻って来た。

「何?」

「いや、消臭剤はどうしたのかなと思って」

「うっ」

心臓がきゅうっと引き絞られる。

「なんのことだよ」

「キミ、全身から消臭剤の匂いがする。今確かめたら家の物はそのままあるからどこかで買って吹きかけたんだろう? あるなら仕舞うからさっさと出せ」

出せも何もバッグも持たず手ぶらなのに、消臭剤なんかあるわけが無い。

「どうした? 消臭剤は持っていないのか?」

「あ、えーと、使ってそのまま捨てたんで持って無い」

「どうして? 勿体無いじゃないか」

そもそもどうして消臭剤を使うことになったのか詳しく話して貰おうかなとにっこりと微笑まれて、おれはそれ以上は隠しきれず、その場に土下座して謝ったのだった。


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正直に言えばいいものを隠そうとするのが小賢しい(塔矢アキラ 九段談)


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