SS‐DIARY

2012年03月10日(土) (SS)元ネタはアルオスメンテ


最近、棋院で流行っているバカみたいな恋占いをやってみようと思ったのは、恋しく思う相手の気持ちが全く解らないからだった。

押しても引いても反応が今ひとつで、けれど諦めるには決定打に欠ける。だから試してみたのだけれど、やりながらも、これで本当に解るのかよ?という気持ちで一杯だった。


用意する物は黒石と、それを包む白いハンカチ。

ハンカチに黒石を包んで抱いて眠れば夢の中に『賢者』が現われて自分の知りたい問題の答えを教えてくれるという。

なんというか和と洋のファンタジーをごちゃ混ぜにしたような、甚だ嘘臭い物だったけれど、だったら逆にやってみても害は無いだろうと思ったのだ。

黒石は那智の黒石を用意した。

ハンカチはいつだったかの誕生日に誰かに貰った高いヤツを下ろす。

これで文句はあるまいと抱いて寝て、すぐに起こされた。


『進藤』

そこは見覚えの無い和室で、けれど何故かそこに塔矢がいておれを揺さぶり起こしているのだった。

『明けるまでそんなに時間は無い。さあ、さっさと始めようか』

まるで普段の『検討しようか』というのと同じノリである。

「はあ? なんでおまえがいんの?」

理性で『よりによって』という言葉だけは辛うじて飲み込む。

「帰れよ。おまえが出てくるなんて聞いてねーぞ。夢には賢者とか言う嘘臭いもんが―」

『ぼくがその嘘臭い賢者だ。キミはちゃんと聞かなかったのか? 賢者にはキミのイメージが反映される。ぼくはその形をとっているに過ぎ無い』

「って…それって、おれの中の賢者のイメージが塔矢だってこと?」

『そういうことになるかな。キミ、バカの割には飲み込みが早いな』

「バカだけ余計だっ!」

思わず怒鳴り返して、それからまじまじと目の前に居る塔矢を見てしまった。

見れば見るほど本人としか思えないけれど、でもこれがおれの中の賢者なのだ。

『さっきも言ったように夜は短い。キミが知りたいということを聞こうじゃないか』

うっわ、高びーな言い方。

でもそれが悲しいかな、塔矢本人とブレていない。

『知りたいことがあってぼくを呼び出したんだろう? だったらいつまでも間抜け面を晒していないで始めようじゃないか』

「って―――」

でも、だって、いや、だからさと、頭の中を様々な言葉が駆け巡る。

そもそもがこの占いをやろうと思ったきっかけが『塔矢がおれをどう思っているのか知りたい』だったのに、どうして本人としか思えない相手にそれを言えるだろう。

「ったく…賢者ならどうして佐為か、最悪越智じゃねーんだよ」

思わずぼそっと愚痴った言葉を地獄耳で拾い上げて、賢者はおれをムッとした顔で睨んだ。

『ぼくに文句を言われても困る。ぼくがこの形をとっているのはキミの中の賢者のイメージが反映されているのだと言っただろう?』

「でも、だったらおれ、他に賢者っぽいって思うヤツいるもん」

『もんと言われても…キミ、そもそも賢者というものはどんなものだと思っているんだ?』

「どんなもんて…。まあ、頭がイイかな」

『それはどんな風にだ? 一口に頭がイイと言っても色々な解釈があるぞ。計算高いとか、知識が豊富とか』

「ああ、そういう意味か。それだったら絶対に間違えを犯さない――」

言いかけてドキリとした。

そうだ、確かにおれの中の塔矢のイメージはそうなのだ。そしてそれがおれの賢者という物の認識なのだとしたらうり二つのこいつが出て来ても何もおかしくはないのだと遅まきながら悟った。

『どうした? 納得出来たのか?』

「ああ。出来た。でも、だったら余計におまえには絶対相談なんか出来ねーや」

『どうして?』

「おれの中の塔矢は絶対に間違ったことなんかするわけが無い。それだとおれの知りたいことの答えなんか、もうとっくに決まってんだよ」

世の中の全ての理に逆らって、おれのことを好きになんかなってくれるわけが無い。

「だからおまえに聞くことも無いや。呼び出しておいて悪いけど、もう帰っていいから」

『なんだ、随分臆病なんだな』

くすっと笑われてムッとする。

「臆病だって仕方無いだろう。本気なんだから。それに…答えが分かっているなら、わざわざ本人の顔で引導渡して貰うことも無いし」

『まあ、キミが望まないならぼくはこのまま消えてもいいけれど』

情けない。この世でたった一人のライバルがこんなにぼくに臆病だとはと言うのに思わず顔が上がる。

「だから! おまえがおれの中の賢者だから答えを聞かなくても解ってるって言ってんだって!」

『解ってる? 本当に?』

ゆっくりと目の前の賢者の姿が薄くなって行く。

『ぼくの本当の気持ちをどうして聞きもしないで解る』

答えが決まっていると思っているなら、それは大きな間違いだと言って賢者はおれの視界から消えた。

そして同時におれも目覚める。


「―最低」

ベッドの中には抱いて寝た碁石とハンカチがばらけた形で散っていた。

「こんな女々しいことやろうなんて考えたおれがバカだったんだ」

目覚めの気分は最悪で、おれは忌々しい思いで碁石とハンカチを拾い上げるとそのまま机の引き出しに仕舞い込もうとした。

その瞬間、ふと手が止まる。

『答えが決まっていると思っているなら、それは大きな間違いだ』

あいつは聞きもしないで決めつけているおれをバカだと言った。相手の本当の気持ちなんて聞かなければ解らないと。

「…だったら試してみろってか?」

おれが知っている塔矢アキラ様だったら、間違い無く速攻お断りの、その後絶交だと思うぜと呟きつつ、そもそもこの占いをやってみようと思ったきっかけを思い出していた。

「でも…あいつ、時々そうじゃないかなって思う時もあるんだよな」

表には出さない。けれど伝わって来るものがあるように感じられる時が確かにあるのだ。

だからおれは諦めきれずにこんな馬鹿げた占いにまで手を出した。

「聞いて…みるか?」

苦笑のように笑って、それから口元をきゅっと引き締める。

「まあ、いいか。玉砕しても」

思っていた通りの答えでも、違っていても――。

聞きもせずに諦めて、もしまた夢の中で塔矢そっくりの賢者に出会い、罵られるのだけは悔しいと思った。

だからおれは枕元の携帯を取り上げると一つ大きく息を吸って、紛れも無い本物の塔矢に電話をかけることにしたのだった。


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元ネタはタイトル通り、「アルオスメンテ」という漫画です。
これがもー、おかっぱじゃないけど、おかっぱ最高という漫画なんですよ。

石頭で融通のきかない、でも天然なおかっぱが大好きだー。

そしてこれを読んで以来、自分の中の賢者はどんな姿なんだろうと考える日々です。本当はアキラに出て来て欲しいのですが、つらつら考えて行くとどうしてもコナンくんが出て来そうなのです。…なのですよ。


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