SS‐DIARY

2011年12月15日(木) (SS)天然様には敵わない


「進藤」

ふいに切り出された言葉にぎょっとする。

「昨日、している最中に笑ったのは、ぼくに何かおかしい所があったからか?」

ベッドで寝起きとか、寝入りばなとかそういうシチュエーションだったらまだそんなには驚かなかっただろう。

塔矢が口を開いたのは、これから仕事に行こうという、朝日が降り注ぐ駅ま
での道の途中だったのだ。

「笑った? おれが?」
「うん。…後ろからしている時に一瞬、ふっと笑ったよね」

繋がっているからそういうのは、よく解ってしまうのだと、ごく自然な口調で塔矢は言った。

「あれは…うん、そうだな。おまえが可愛かったから」
「誤魔化すな。ちゃんと正直に言え」
「誤魔化してなんか無いって、マジでカワイイなあって」
「あんな這い蹲ったような格好で、滑稽だと思ったんじゃないのか」
「そんなの思うわけ無いだろう」

実際、滑稽どころか昨夜の塔矢は色っぽく、問題の後ろからの時も、あられもなく身をよじってたまらないくらいだったのだ。

「だったら何故笑った?」
「だから…マジでカワイイなあって思ったんだよ」

そして胸が潰れそうなくらい愛しいと思った。いつも、いつでも好きだと思うのに、それよりも更に好きだと思ってしまった。

出会ってから随分経ち、こういう関係になってからも何年も経つのに、未だにおれの塔矢への気持ちは色褪せるということが全く無い。

それどころか毎日、出会ったばかりのようにドキリとさせられて恋しい想いに囚われる。

「ごめん、確かに最中に笑ったら誤解するよな。でも本当におまえのこと可愛くて、すげえ好きって思っただけだから」
「そうか、ならいいんだ」

塔矢の口調はさらりとしていて感情が読めない。

でも少なくとも怒っていたり、責めていたりする風では最初から無かった。

「なあ…怒ってる?」
「どうして? ただ疑問だったから聞いただけだ。している時の姿は自分では解らないし、もしぼくが無自覚でそういう萎えるようなことをしてしまっていたのだとしたら正そうと思っただけだし」

まるで日常のなんでもない仕草や癖の話のように塔矢は話す。

「だからってこんな所で話すか?」
「別に構わないだろう。というか、こんな所でも話せる関係の方がぼくはいい」

夜のことも昼のことも、いつでも隠すことなく話し合える関係がいいと。

「そりゃそうだけどさ…」

する前は、性的なことに関心があるとは思わなかった。そういうことを毛嫌いするような潔癖なイメージが塔矢にはあったからだ。

でも実際触れ合ってみたら、全然そんなことは無くて、むしろ積極的に応じたりもする。

「幻滅したか?」
「いや」
「嬉しいけれどね、キミとこういう会話も出来るんだってことが」

腹を割って話さないとお互いに気持ちよくなることが出来ない。どちらにも『良い』行為にするためには、双方の努力が必要だからと、あからさまにも関わらず、塔矢の口調に淫靡さは無かった。

「おまえってさあ…」
「なんだ?」

言いかけて止めた。

「いや、いい。おれもおまえとフツーに話せるのって嬉しいし。で、さあ」

じゃあぶっちゃけ腹割って聞くけど、実際の所、前と後ろとどちらの方がおまえには『イイ』んだと尋ねたら、塔矢は一瞬考えるような顔をして、それからにっこり爽やかに、「どちらも」と言い放ってくれたのだった。



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